まほうつかい【泉田莇】 (ページ10)

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いつも以上に丁寧に、慎重に、少しずつ魔法をかけた。

Aは鏡越しの自分を見るなり、キラキラと笑みを零した。

「わぁ……！私じゃないみたい…！」

仕上がりの良さにA以外にも、スタッフの人も驚いている。

正直俺もビックリしていた。

「A…………。綺麗になったな」

「……あーちゃん…………。そんな事ないよ。あーちゃんが全部私に教えてくれたから…………」

「全部Aの努力で、ここまで綺麗になれたんだろ」

そうだ。
【魔法をかけて】から【魔法を教えて】に変わったあの日。

Aの中で既に動きはじめていたんだ。

その時から俺はもうAの胸中にはいなかっただろう。

Aはふわりと笑うと、俺の手を掴んだ。

「…、あーちゃんにそう言われたら少し自信持てるかも。
でも、あーちゃんのメイクには勝てないや。こんなにも綺麗にしてくれたんだから。

やっぱりあーちゃんは魔法使いだね！」

潤んだ眼に見つめられ、胸がキュッと跳ね上がる。

Aにもう魔法をかけられない。
俺の隣にはAはいない。

その日が来るって分かっていたのに。

頭が追いついていない。

「A様、そろそろ」

扉が開いて、スタッフがそう呼びかける。

Aの視線が俺から逸れて、胸がどんどん締め付けられていった。

「あっ、はい。すみません。
じゃあ、あーちゃん。またあとで」

「…………、あぁ」

Aの温もりが俺から離れていく。

出来るのであれば、行かないでほしい。
そのまま俺のところに戻ってきて、抱きしめてほしい。

そんな願いは届かない。

「…………Aっ！！」

「………………っ、幸せになれよ！！」

俺がそう叫ぶとAは今まで見たことないような、綺麗な笑顔で頷いた。

『新郎新婦、入場です』

頬に、涙が伝った。

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