元、小鳥遊事務所の専属カメラマン。 (ページ20)

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「新婦入場」

会場の扉が開かれた。
背後の陽気に照らされて入ってくる純白に包まれた彼女は、下を向いている。
顔を見れないのが歯がゆくて、早く隣に来てほしい、こっちをみてほしいなんて思う。

それが伝わったのか、彼女は顔を挙げてまっすぐにボクを見つめた。
遠くて、ベールに隠れて、あっているかわからないような視線がパチリあったのを感じた。

いつか2人で選んだドレスを、宝飾を着けて、照れ笑ったのが脳裏に浮かぶ。

キレイで、かわいくって、とてもじゃないけど直視できなかった。
"似合い……ますか"
恥ずかしそうに伺うキミに、
"いいんじゃない"
ついそっけなく返事をしたこと、今でも後悔してる。

本当なら"似合ってる"とか、"キレイだよ"とか。言いたかったけど、言葉が飛んで上手く言えなくて……。

でも今日なら…

弥生さんに伴われてゆっくり歩むキミは何を考えているのかな。
気遣うように、離れるのを惜しむように、一歩一歩小さく、確実に弥生さんは歩いた。

前に会いに行ったとき、
諸事情で妹と9年も離れていたからか、
"やっと傍に置けるようになったのに、俺から琴葉を取るんだから天くんも意地悪だよねぇ"
なんて言われた。

返事に困るボクにあの人は冗談だなんていったけど、本音だったのはなくとなく感じていた。

弥生さんが琴葉の腕を手放す。

「行っておいで」

微笑んだ彼はボクに向き直ると"妹を頼んだよ"声には出さずに告げた。
誰にもわからないように小さく頷いた。

誓いの言葉を述べて、指輪をはめた。
はにかむ琴葉に愛しさを覚えながら、ゆっくり彼女を覆うベールを捲る。

誓いのキスのシーン。

カメラを片手に、ボクたちを取り囲む身内や招待客。

『……天さん？』

「…………」

このまましてもいいけど、見せたくない。
キスをするときの彼女の恥ずかしそうな顔は、ボクが知っていればそれでいい。

手のひらで頬を包んで引き寄せる。
少しずつ顔を近づけて、いよいよ、という瞬間、招待客から琴葉の顔が見えないように向きをかえて、そっと触れるだけのキスをした。

切られたシャッター、写る写真はボクの後ろ姿と、ボクで隠れた琴葉のドレス部分。

披露宴では挨拶にくる人片っ端から冷やかしとブーイングが飛んだ。

「独占欲か？」

「………かもね」

『えっ』

冷やかしに来たらしい楽に返すと、隣に座る琴葉が顔を赤くさせた。
愛されてんな、と彼女に笑う楽に当たり前でしょ、なんて言葉が頭に浮かんだ。