(;´_ゝ`) ページ12
後藤side
「……はい、もしもし。あ、琴葉?」
「姉さん!!?」
芸事の名門、波川家本家。
門徒から手渡された電話の受話器を持った御方は、相手が妹だとわかるとわかりやすく顔を明るくさせました。
その近くにいた弟君も同様。
彼は波川弥生。
波川家の若き当主であり、栄誉ある"名の継承者"であられます。
名の継承者とは、所謂通り名……異名のようなものであり、その者の実力や地位、場合によっては"他への影響力"も意味に含まれます。
しかしながら名を継承できるのはたった4人。
その4人とも大抵は当主一族から排出されるのですが……
門徒にどれだけ才能があろうが、いくら懸命に血のにじむ努力をしようが、有力な候補者に選ばれようが、滅多に継承者が現れないのには__理由が。
それは一族に近しい者……例えば近衛集団や私のような側近のみが知る事実であり、門外不出の秘密。
それは、
彼らの始祖が――であり、その子孫の彼らには――の血が流れること。
……あぁ、いけません、話を戻さねばなりませんな。
弟君の名は波川宏紀。
波川家の末子であり、彼も名の継承者です。
宏紀様は姉君である琴葉様に大変懐かれておりまして……世間ではシスコン、という部に属するようです。
本来なら、次男である龍馬様もいらっしゃる筈ですが……なにぶん本日のスケジュールがいつもよりご多忙の為でしょう。
我々では身に余るご兄弟の引き止め役を兼ねる龍馬様も、この時ばかりはおりません。
それが災いしたのでしょうか。
「どうしたんだい?お前の公演スケジュールは4月からの開始…
………うん?何でも兄様に話してごらん。
…ふふ、ごめんごめん」
いつもの3割増しで上機嫌な弥生様が自ら"兄様"と自称する際は、大抵琴葉様をからかっていられる時です。幼少の琴葉様からの呼び方が可愛いらしかったのだとおっしゃってました。
言い淀む琴葉様を急かすと、数秒後には固まる弥生様。電話主に確認するように、弥生様は少々震えながらおっしゃられました。
「琴―、―――でき―って」
「え?」
脱力したような小さな声に、宏紀様は聞き返されます。一方私には何の事だか聞き取れてしまいました。
……あぁ、それは。
「琴葉が…恋人できたって……………」
「誰そいつぶち殺す」
「琴葉、今度そいつ連れてきてね?絶対」
部屋中が殺意で溢れ、黒い笑みを浮かべる弥生様に、五寸釘を打ち込み始めた宏紀様。
…いささか大変なことになりそうです。
266人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ラディ | 作成日時:2019年5月12日 22時