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手鏡3 ページ44

side:樋口

「…ん、姐さん!」
「!っ、すみません…どうしました?」
「任務の報告書持ってきたぜ。大丈夫かよ、ぼーっとして」

大丈夫だと答えて、書類を受け取る。
何故だか、仕事に身が入らない。
こんなこと、あってはならないのに…。

「本当に大丈夫かね。顔色が悪いが」
「えぇ、本当に大丈夫です。少し、失礼します」

気まずさに耐え兼ねて部屋を出る。
こんな時は、アレに助けて貰おう。
ポケットから、小さな手鏡を取り出して自分を映す。
あぁ…、これを見ていると、随分と心が落ち着く。こんな自分でもなんでも出来る様な全能感にも似た感覚が得られる。
一度、その感覚に気づいてしまえば鏡が手放せなくなっていた。
あの占い師からこの鏡を受け取ってから、日に日に鏡を見る回数が増えていっている。
以前は何ともなかった事すら、鏡を見なくては不安で怖くて仕方ない。耐えられない。
悩みも、辛いことも、この小さな手鏡が…鏡の中の私だけが助けてくれた。

ー醜い

「っ…」

まただ。
鏡を覗けば、多幸感と引き換えに訪れる頭痛と、頭の中に響く声。
しかし、それは決して不快なものではなかった。
残酷な言葉を放っても、その声は労わる様に優しく、頭痛すら愛撫の様に感じた。

ーなんて、私は醜いんだろう

私の声だ。
鏡の中の私が笑っている。その顔は、酷く歪んでいた。
これが、私の本性なんだろうか。

ーこんなのじゃ、芥川先輩に見て貰えるわけがない

では、どうすればいい…?
特別仕事が出来るわけじゃない。寧ろ、この仕事は向いていない。
見目が優れていても、あの人には関係ない。
あの人の為に尽くしても、邪魔だと邪見にされるだけ。

ーあの女…私が欲しいものを全て持っているあの女…

そうだ、彼女は、私にないモノを全て持ってる。
先輩からの信頼も、実力も、美しさも。
囁きかけてくる鏡から、目が離せない。彼女の言っている事が全て正しく思える。

ー憎い

「…にく、い…」

ーあの女が憎い

「あの…女が、憎い…」

ーあの女の持っている物全て、奪い取ってしまえ

「奪い、とって…」

ー殺せばいい。あの女を殺せば、私は、あの女になれる。あの女の持っている全てが手に入る

「殺せば…手に、入る…」

鏡の中の私。
彼女だけが、私の理解者だ。
彼女の言う通りにすれば、私は幸せになれる。だって、彼女は私なのだから。
気が付けば、手鏡を握りしめて外に出ていた。
足が自然と向かった先は、霊能事務所ー。

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をたく - 夏目友人帳とコラボでこの作品出してほしい (2020年1月3日 4時) (レス) id: cd1a846ab2 (このIDを非表示/違反報告)
光牙 - 怪奇症候群を思い出すなぁ... (2018年8月16日 20時) (レス) id: bfcb6bfd1c (このIDを非表示/違反報告)
amato(プロフ) - ルルさん» コメントありがとうございます!猿夢はグロいですよねwしかも、元ネタ読むと自分も同じ夢を見るという噂が…。まぁ、私見てないんですけど (2017年8月31日 6時) (レス) id: 6e722ca549 (このIDを非表示/違反報告)
ルル(プロフ) - ヒャ、猿夢はトラウマです…うぅ…(長い間見てなかったです。すみません) (2017年8月30日 5時) (レス) id: 622016f6ff (このIDを非表示/違反報告)
amato(プロフ) - にぃさん» ありがとうございます! (2017年8月27日 9時) (レス) id: 6e722ca549 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:amato | 作成日時:2017年8月16日 22時

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