ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ9)

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共犯者-幼少期-side 尾形ページ9

side 尾形

没落士族の家の子。
母親は大きな商屋のお嬢様だが兄がそれを継いだため、母親には何もない。
見渡しの良い広い河川敷に向かう途中にその家はあった。

時折、女のもはや聞こえないほど高い金切り声が聞こえる。
そして時折、少女の悲痛な赦しをこう声が響くのだ。
別の日は柵の隙間から小さな女の白い足がパタパタと揺れていた。下手くそな鼻歌付きであった。

少女の母親は娘を着飾るのが好きであったため、上等な着物を着ていることが多かった。その黒い髪は絹のようであった。
側から見たらいいお嬢様だ。しかしその実態は。

何度金切り声や泣き声、鼻歌を聞いたかわからない。
その日は鼻歌であった。幾分かマシな気分で河川敷に向かう。

ふと、ガサゴソと草木を分ける音が聞こえる。振り返ると少女がふらっと後ろをついてきていた。
上等な着物が枯葉だらけであるのに、少女はそれを気にもせず幽霊のようにふらふらと近づいてくる。

百之助は見なかったふりをして河川敷へと向かうことにした。

鴨を撃ち落としいつものように首根っこを掴む。
季節はもうすぐ春になる。もう少しであんこうの季節も終わる。
しかし、今日失った命はおそらく百之助たちの腹に入ることはない。チクッとよくわからない胸の痛みに首を傾げる。

ふと、百之助は後ろで三角座りをしながらぼーっとこちらを眺めている少女に向き直った。
近づき、むんずと鴨を差し出す。

「やる」

この少女の家にでも食って貰えば少しはマシだろう。
しかし、少女はただでさえ無表情な顔から少しだけ怯えたような顔を見せた。

「...お母様が怒るから」

蚊の鳴くような声であった。
どうやらこの少女にとって母親は化け物と同等らしい。

百之助は無言で少女に背を向け帰路につく。
大人になっても幸せになれないものたちの子供が幸せになれるはずなどないのだ。
少女もまた、自分と同じだ。