ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ8)

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いつもの河川敷。
葬儀があり人は出払っている。ここに来るものは誰もいないだろう。

百之助がこちらを振り向き口を開く。

「なんで...」

なぜ、殺鼠剤な瓶をということか。そもそもお前が巻き込んだのではないか。いろいろな考えが浮かんでは消えていくが、誰もこの少年がききたい答えではない気がした。
それでも一言文句を言ってやろうと眉間に皺を寄せる。

「百之助が連れて行った」

これが全てではないか。
百之助は俯き何も答えない。そもそも理由などなかったのかもしれない。心細かったから、とかそんなものだったのかもしれない。

それでもいいと思った。
Aは元々何も持たない。持たないものは何かを背負うことなどないのだから。

「いたら、いいなと思った」

百之助が意外なことを呟いた。Aにあの人殺しの場にいて欲しかったのか、それとも本当はただ夕飯を共に食べたかったのか。そして魔が刺して殺鼠剤を入れたのか。
どちらでもいいかとAは百之助を見上げた。
百之助の顔は逆光で見えない。それでも見たことがないほど情けない顔をしているであろうことはわかった。

ひとりは、さびしい。

Aの黒く染まった胸にぽたんと白いインクが落ちた。

ひとりはさびしい。

ぽたんぽたんと、インクが垂れていく。
黒にいくら白を垂らしたところで白にはならない。
それくらい今のAには素直な気持ちなど必要なかった。
それでも、この少年は一人が寂しかったんだな、そう理解した。

百之助が寂しい思いをしませんように。辛い思いをしませんように。自分のように閉じ込められたりせず、大切なものを奪われることなどありませんように。

今となっては自ら大切なものを手放してしまった少年を見つめる。今だに逆光で顔が見えない。

もしこの母の人形でしかないAが役に立てるのなら、そばにいたことで少しでも百之助の心が沈まずに済んだのなら。

Aは少年の両手をそっと握り込んだ。
顔は見えない。でも彼にはAが見えている。

「ふたりで、ひとつ」

それで十分であった。