ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ34)

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あなたのためを思ってページ34

「兄様のお知り合いでいらっしゃいますよね？」

見知らぬ男たちに囲まれているAににこにこと近づく者がいた。
尾形を兄様と呼ぶ者は1人しかいない。勇作である。

「やべぇ...少尉だ。」

男たちはゾロゾロとその場を後にする。
Aは掴まれた手首をブンブンと振ると、勇作に向き直った。

「えぇ、そうでございます。」

Aは頭を下げる。

「そんなっ！畏まらないでください。その、兄様のお話を聞きたくて、団子屋でお茶でもいかがでしょうか？」

この状況を尾形は心底嫌がるだろうが、尾形は勇作について多くは語らない。Aも気になっていることがある。
小さく頷き勇作の背を追いかけた。

団子屋は外に長椅子が置いてあり日を浴びながら茶と団子を食べることができる。

みたらし団子とお抹茶を二つ注文した勇作はその長椅子にAを誘導した。Aが座ると勇作も続いて腰掛ける。
勇作はAに向かって至極丁寧に自己紹介してから気まずそうに尋ねた。

「あの男たちは...？」
「知らない男です。」

ナンパということが伝わったのか勇作は一度口を閉じる。
再び勇作から名前を聞かれ気が進まなかったが、Aですと丁寧に答えた。

「兄様とはどのような関係なのでしょうか？」
「同郷です。」

勇作は目をぱちくりとさせ朱を見つめる。
なるほど、眉目秀麗、成績優秀、品行方正、そして童貞。
Aはクスリと笑うとその口元を着物の袖で隠した。

「兄様は兵営ではそっけないのです...。嫌われているのでしょうか。」

お前の父親が何をしたか、何も知らないのか？そんなはずはない。兵舎にいれば嫌というほど噂が耳に入ったはずである。

「なぜ嫌われていないと？」

素直な気持ちが口をついて出た。

「私は、ひとりっ子育ちでずっと兄弟がほしかったのです。兄様に出会えてとても嬉しく、兄弟のような関係に...」

夢物語である。先ほどからこの男は尾形の感情を総無視している。
Aの瞳が黒くドロドロと濁る。その明確な嫌悪にすらこの男は気づかない。

『祝福されて生まれたやつは世界が違うと思うか？』

少し寂しげな尾形の問いを思い出す。
お前はこの男と同じを望むのか。お前のほうがよっぽど優しく、価値があるというのに。

かつて、家のないものや体を売るものを見下していた母親と同じようなものではないか。
反吐が出る。

Aは嫌というほど知っている。
そういう奴らは決まって言うのだ。

『あなたのためを思って』