ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ32)

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共犯者-日露戦争前- 8 ページ32

「A、知ってるか？」

縁側の日向でゴロゴロと日向ぼっこをしていた尾形が卓に座るAに話しかけた。

「処女は玉が当たらんらしい。」

なんの話だ。
Aは眉間に皺を寄せながら首を傾げる。

処女は玉が当たらない。
玉と縁がない。なるほど。

Aはケタケタと声をあげて笑った。
とんだ冗談である。

「私が戦争に行ってやってもいい。」

Aは裁縫の手を止めて床に転がり腹を抱えた。
Aは尾形以外の男に声をかけられるのみで仲良くなることはなかった。もちろんそんな経験もない。

「そこから派生して童貞は玉が当たらないと迷信が生まれたみたいだ。旗手は童貞が選ばれるらしい。」

おそらく次の旗手は勇作殿であろう。
尾形の少し不機嫌な人相からそれを予想する。

「私と勇作殿がいれば日本が勝つのか。」

随分重いものを背負わされたものだ。そもそもAは背負っていないが。
尾形はきょとんとしたかと思うと楽しそうに口角を上げた。

「俺が戦争に行く時はお前の髪を持っていく。」

ゲン担ぎにも程がある。
本当は下の毛がいいらしいがな、と尾形が呟いたのが聞こえてAは尾形にずるずると近づきおでこを軽く叩いた。

「品がない。」

ぷいとそっぽを向く。
珍しく尾形が声をあげて笑った。