ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ31)

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山猫の女2 side 月島ページ31

尾形に妻はいない。それは周知の事実であった。
しかし噂はあった。27聯隊の山猫が女を囲っている。
日曜になるとたまにコソコソと目撃情報があった。

信じるものもいれば信じないものもいる。しかし、尾形が上官に遊郭に連れられると決まって床を共にする前にふらりと消えてしまうことを月島は知っていた。

その日は決まって兵舎には帰っていない。
なるほど、そういうことか。

「名前は」
「A」

この女は必要なこと以外喋らないのか。
ぺらぺらと嫌味だけは饒舌な猫目の部下を思い出し月島は少し辟易とする。

「Aさん、このことは尾形上等兵には」
「...好きにしていい」

Aは少し考え込むと、ニヤリと笑った。
何かを企んでいる顔はあの男とそっくりである。

「とにかく夜は出歩いてはいけない。尾形上等兵に叱られたくなかったらな」

月島立ち上がり、Aに背を向けた。
面倒な部下ばかりなぜ集まるのか。
月島は顔を覆って落胆すると、女を置いてその場を後にした。

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「尾形上等兵」

横を通りかかった尾形を呼び止める。

「女を囲うのは自由だが、夜は出歩かないように忠告しておけ。」

尾形の眉間に皺がよるのが見て取れた。

「Aに会ったんですか。」
「昨日の深夜襲われていたところを助けた。」

尾形の顔に僅かに青筋が立つ。
この男こんな顔もするのか。

「安心しろ、未遂だ...」

尾形がほんの少し目を伏せる。

「どこで」
「八百屋の横の裏路地だ。」
「何人」
「二人組だ」
「誰ですか」
「軍服を着ていたが、Aさんの保護を優先したため聯隊までは...おい、何をするつもりだ。」

月島の返答のたびに尾形の青筋が広がっていく。
このままでは大変なことになりかねない。

「こちらで見つけ出し厳しい処分を下す。尾形上等兵はAさんにしっかりと忠告を...」

尾形の青筋がスッと引き、代わりに怪しい笑みが広がった様を見て言葉に詰まる。

「とにかく余計なことはするな。」

告げたことを後悔するかもしれない。月島の心中に嫌な予感が広がり、足早にその場を後にした。

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数日後、隊士が2人使われていない倉庫で自決しているのが発見されたと上官から報告があった。

厄介なことに足を突っ込んでしまったと、月島は呪われた性分にため息をつく。

そもそも、あの男にあそこまで執着された女。
Aが何よりも不憫に思えた。