ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ25)

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5 side 尾形ページ25

第七師団に入隊した尾形は一年ほどで上等兵候補から上等兵に選抜された。
随分と動きやすくなったものだ。決まった曜日だけだが演習後の夕刻に外に出ることができるようになった。尾形は1人思案する。しかし、

「兄様っ！」

面倒なのはこの男だ。
第七師団長である花沢幸次郎と本妻の息子。花沢勇作少尉。尾形の腹違いの弟である。
ひとりっ子育ちでずっと兄弟がほしかった、などと偉そうなことを言っているが尾形には嫌味にしか聞こえない。

いや、この男は本気でそれを言っている。もし、仮にそうだとしたら、祝福されて生まれた子というのはこんなにも眩しく育つものなのか。

くだらない。
あの尾形しかうつさない瞳をもつAの元へ帰りたい。
あそこにいれば、光は近づかない。あの女は光を近づけない。
Aは闇を見つめる方が似合っている。

ふっ、と息を吐き逃避していた思考を勇作に戻す。

「なんでしょうか、勇作殿。」
「日曜に兄様が連れていた女性はどなたでしょうか？」

は...、と時が止まる。周りの隊士たちが尾形の珍しい顔色を覗き込んでは目を逸らしていく。

「な、んの話でしょうか。」
「古着屋の前に2人で仲良く並んでいらしたでしょう。髪を結っていない女性は珍しいので目立ちましたよ。しかしあの水の流れるような黒髪であれば結わずとも...」

流石の勇作でも尾形の怒りに気づいたのだろう。言葉を止める。

「放っておいていただきたい」
「しかし...」
「決して」

尾形は勇作を睨みつける。

「決して、あの女に近づかないでください」

これは忠告ではない。警告だ。
あの日の河川敷の夕陽、あれ以上の光など尾形には必要ない。
祝福された者たちと、いらない子である我らとでは住んでいる世界が違う。
土足でこちらの世界を踏み荒らし、あの河川敷にでも入られた日には

(兵舎ごと燃やしてしまおう)

夕飯ももうできている頃だ。
尾形は勇作に背を向け、あの塀に囲まれた縁側の家へ急いだ。