ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ23)

今日:9 hit、昨日:45 hit、合計:10,708 hit

3 side 尾形ページ23

兵卒たちは特に戦争などがない限り、日曜は休みであるようだった。街へ出たり、女遊びに出かけたり、部屋で惰眠を貪るなど各々自由に過ごしている。
とりあえずとAに持たせた金はあるが、Aがどのような生活をしているか想像ができない。
まさか、と嫌な予感がして、日曜の朝尾形は早々にAの元へ向かった。

尾形の予想は外れなかった。
台所は使われた形跡がなく、居間には丁寧に仕立てられた新しい着物。先日古着屋の老人から買い取った布からできたものであった。

「何も食ってねぇのか」

居間の座卓にちょこんと正座をしているAに問いかける。

「どこで」

つまりこいつは外に出ていない。
はぁ、と尾形は仕立てられた着物を手に取るといくぞ、と手短に合図した。

玄関の戸を開けるとAは素直についてきた。季節は2月になる。
まだ肌寒い。火鉢でも買わなければ体に悪いしあの部屋には敷布団さえなかった。

「炊事はできるか」
「できる」

あのAの母親のことだ。そこら辺は仕込み済みだろう。
古着屋の前で老人に声をかける。

「買ってくれ」
「あぁ、あの時の兵隊さんじゃないか」

老人は店の奥から顔を覗かせると、何やら嬉しそうな顔で尾形に近寄る。

「あの着物はよく売れる。街の娘たちがこぞって買っていった」

なるほど、確かに上等な生地であったしAの仕立ては丁寧で綺麗だ。少し多めの代金をもらい、その金で新しい布を調達する。

祖父母の家から盗んできた全財産がまだある。
Aがここでの生活に困ることはないだろう。生活ができればであるが。

「俺は布団や火鉢を調達してくる。お前は食材を調達してこい」

Aの財布に金が入っていることを確認し、背中を押す。
Aは不安そうに振り返ると、トボトボと歩き出した。

この近くは商店街だ。ここらでなんでもある程度は揃うだろう。全てのものを調達して尾形はAの姿を探す。

「今野菜が高騰していてね、五銭になるよ」
「五銭...」

Aが財布から金を取り出そうとしているのを、尾形はギョッとして止めた。八百屋の店主に睨みを利かす。

店主は引き攣った笑顔を見せると金を受け取ろうとした手を引っ込めた。

尾形の悩みは尽きない。