ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ20)

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共犯者-日露戦争前- ページ20

北海道についてからが大問題であった。
兵舎についてしまえば尾形はAと共にいられない。
Aは体でも売って凌ぐかという心積もりであったが、尾形がそれを許さなかった。

器用に兵舎に忍び込み、そもそも忍び込む必要はない気もしたが、上等兵の軍装を身につけて再びAの前に現れた。

「いつ出れるかわからんからな」

兵舎に入ればいつ外に出れるかわからない。Aはそこのあたりの都合には疎かった。
兵舎近くの古着屋を見つけ、貼り付けたような笑顔でAの仕立てた着物を売りつける。古着屋のじいさんが目を細める。

「ほほぉ、随分と器用な...」

仕立てた着物のあちらこちらを見ながらAをチラチラと覗き見た。

「上等兵さんの頼みでなくとも、そちらの気立てのいい娘さんならうちで働いてもらっても」
「いや」

尾形は貼り付けた笑顔のまま自身の坊主頭を撫でる。

「うちの妹は少し気が違っていてね。着物を仕立てることはできても、看板娘としては難しい。人と言葉をうまく交わせないもんでな」

なるほどそういうことか。別に働いても困るものでもないと思ったが、尾形がAを隠しておきたいならそうすれば良いと思った。

「布を渡して、布代を引いて仕立てた着物を買ってくれればいい。」

Aはそこら辺の会話で飽きてしまい。道端の花を摘み始めた。
茨城からずいぶん遠くまで来てしまった。ここなら両親も追ってこれまい。道端の花を腕輪にする。器用なAには造作もないことであった。白詰草の腕輪だ。後で百之助にやろう。

ふと振り返ると尾形がAを眺めている。なんだ、と首を傾げるとついてこいと背を向けた。その指には鍵が握られている。

古着屋の裏路地の先に行ったところ。石畳みを登ると一軒の小さな家がある。塀に囲まれて中は見えない。尾形はその家の玄関の鍵を開け玄関たたきに上がり、上がり框に腰掛けた。

「貸してくれるってよ。」

どうやらあの古着屋のじいさんには行方知らずの娘がいるらしい。もともとその娘さんと住んでいた家だが妻が死んでから娘もいなくなりあの古着屋の奥で暮らすようになってからこの家は使わなくなってしまった。

Aは尾形の隣に座る。尾形の腕を手に取り先ほどの白詰草の腕輪をつけた。

「いくらでもある...」

尾形の低い声と共にため息が聞こえた。

なるほど。
あの柵の上の腕輪たちを後生大事に取ってあるとは。

Aは目をぱちくりとさせた後、にぃと笑った。