ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ18)

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入隊のための身支度を済ませ、河川敷に向かう。
今日は祖父母と夕飯を共にし、そのまま東京まで歩く予定であった。東京の鉄道に乗り北海道に向かう。

河川敷はあの頃と変わらぬままであった。
今日は銃を持ってきていない。Aは来るであろうか。

ザクと重い足取りの音がする。振り返ると息を切らしたAが風呂敷を地面に置いていた。

こいつ何着仕立てたんだ。
女の身支度は多いと聞くが、ここまでとは。

「何が入ってるんだ」
「多い方が金になる」

なるほど、路銀に困ると思って大量に仕立てたか。よくここまで布が手に入ったものである。
もしかするとAは一文なしで夜逃げすると思っているのだろうか。

「まぁいい、いくぞ」

その風呂敷を掴みAに背を向ける。無言でついてくるAの気配が懐かしくふとあの日の香りが鼻につく。尾形はぐっと奥歯を噛み締めた。

尾形の家に着くと、家の裏口に荷物を置くように伝える。
Aは素直にそれに従った。Aを北海道に連れていく事がバレるとまずい。

自宅の玄関の引き戸を開ける。
祖母があんこう鍋を用意していた。
Aの顔をちらりと見やるが、驚きもせず、相変わらず何を考えているのか分からなかった。

「しばらく来れないから」

尾形はそれだけいうと、火鉢のそばに腰を下ろした。
Aもぺこりと祖母に頭を下げ火鉢のそばで三角座りをした。

祖母が訝しげにこちらを見ている。
しかし何も言わない尾形とAに、はぁとため息をついてまたあんこう鍋の支度に取り掛かった。

尾形はAの横顔をじっと見つめた。Aは火鉢をぼうっと見つめている。10年だ。10年前に会ったきりの少年にここまでついてくるとは、駆け落ちか何かと勘違いしているのか。そんなはずはなかった。Aはそんな類ではない。恋とか愛とか、そんなもので騒ぐような女ではないことを尾形は知っていた。

まぁでも、いいか。
この10年、Aは一度だって尾形の状況が悪くなることは言わなかったのだから。