ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ16)

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共犯者-青年期-side 尾形ページ16

side 尾形

あれきりAとは会えなくなった。
柵を覗いて中を見ても、縁側の向こうの障子は閉じたままであった。金切り声は続いている。しかしもうAの泣き声は聞こえなかった。

あの出来事から10年近くが経過していた。
尾形の入隊が一月後に近づいている。尾形は茨城から北海道に配属が決まっていた。忌まわしき父親のいる北海道であった。滅多にここに帰ることはできないだろう。

幼い自分は会えなくなったAを少し寂しく思い、柵の平らな部分に花を置いた。次の日そこを見ると花は無くなっていた。

何ヶ月も時折花を置いた。手紙等が返ってくることはなかったが、柵の向こうの庭の花で作った腕輪がそっと置かれている事があった。そういえばAは手先が器用であった。

10年頻繁に続けたわけではない。ただ時たま、珍しい石や花を見つけると柵の上に置く。次の日にはお礼のように庭の花が指輪や腕輪の形をして置かれている。律儀なものだと思った。それと同時に、Aの輪郭がもう思い出せない。

ふたりで、ひとつ、ではなかったのか。

時折噂で聞いた。ここのうちの子は気が違ってしまった。体が弱いから外にも出れない。時折縁談が舞い込むがいつの間にか白紙になる。

外にも出れないAは今何を思い、何を悲しんでいるのだろうか。
Aの母親は、Aをどこまで連れていくつもりであろうか。

それとも、どこにも行かせないつもりであろうか。

柵に持たれてAを待つ。かたん、と障子の開く音。ザッザッと地面を蹴る音、細く青白い手が柵の上の花を掴んだ。

その手を掴む。びくっとその手は固まり、次第にカタカタと震え出した。Aはこんなにも臆病だっただろうか、違う者の手を掴んだか。柵の隙間を覗き込むとそこにはAの面影を持った女が立っていた。女の目が見開かれる。

ずいぶんと成長したものだ。結っていない髪の毛は相変わらず絹のように美しく、変わったのは少し大人びた顔立ちと丸みを失った頬だけであった。

「一月後の夕暮れ、河川敷で。」