ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ15)

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河川敷は静かであった。いつもなら時折遠くから聞こえる子供の楽しげな声も今はない。

百之助はいつの間にか上がっていた息を整え、夕陽に背を向けてAに向き直った。

「なんで」

なぜ。そのままでよかった。何かをお前に求めていたわけではない。自分はただ、となりに、お前が。

「百之助が連れて行った」

要点だけしか喋らないAのその口調は時折百之助を責めたてる。
百之助は俯く。自分はただ、誰かが。
自分だけを見ている誰かが

「いたら、いいなと思った」

ほとんど呟きであった。肯定してほしいと思ったことも昔はあったかもしれないが、現実に心がない母にそれを期待しても無駄であった。誰かの返事を待つのはもう疲れた。

Aが動く気配を感じると同時に両手が握られた。
情けない顔をしている。自分が泣いていないことだけはわかる。しかし、これではほとんど泣いているのと同じだ。
逆光となった自分の影がAに重なり、Aが暗くなる。
その顔は薄らと笑みを浮かべていた。

「ふたりで、ひとつ」

この女は何を考えているのかさっぱりわからない。
わからないから、分かろうとしなくて良い。

ただ、見捨てずここにAがいる事。その事実が百之助にとっての答えであった。