ふたりで、ひとつ-共犯者篇-幼少期〜日露戦争前 (ページ1)

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共犯者-幼少期- ページ1

子は親を選べない。それは逆も然りではないかと思う。

こんな不出来な子供を産ませてしまって申し訳ない。嫌味の混じった思考を浮かばせながらAは罵詈雑言を浴びせる母親の顔をちらりと見て目を逸らした。

外出許可は当分出ないだろう。
自室の縁側で足をパタパタとさせながら自身で勝手に作った鼻歌を庭に燻らせた。春が近づいているのか庭では様々な草花が若草色になって風に靡いている。

家と通路を隔てる柵の隙間からAと同い年ほどだろうか、6つか7つほどの幼い少年の坊主頭が見えた。

坊主頭の少年と目が合う。ふいと逸らされた視線に妙に光がなく、Aは足音を消しながら庭に出て、草に隠した柵の抜け穴に身を潜らせた。

母親に知られでもしたらあの人はまた被害者面をして床にでも伏せるかもしれないな。そう独りごちる。

坊主頭の少年は後ろからとぼとぼとついてくるAに気づいているのかいないのか、河川敷まで歩みを進めた。その柔らかく小さな手には大きな猟銃。

そういえば近所の人が鳥や猪を撃っては家にお裾分けをしてくれていた。その肩にはもう少し小さな猟銃がかけられていたと思ったが、それもそうか。

少年は何やら空を見上げ見渡し猟銃を構える。バァンッという発砲音が山々にこだましたと同時に空を滑空していた一羽の鳥が力をなくして落下し河川敷に落ちた。

少年はトボトボとその鳥の首根っこを持ち拾い上げ、振り返る。

今度こそ目が合った。

近づいてくる少年に何を言おうか迷っていると少年はその鳥をむんずとAの前に差し出した。

「やる。」

無遠慮なその一言に、Aは眉間に皺を寄せた。

「おっかあはあんこう鍋しか作らない。」

どうせ持って帰っても意味はない、そう言うことか。

「...お母様が怒るから...。」

外に出ていたことが分かれば何を言われるか、Aは嫌と言うほどわかっていた。あんこう鍋と言葉を聞いてそういえば頭がおかしくなった芸者の家の子か、と思った。

母はあの家を毛嫌いしているし、その芸者の息子からの贈り物など捨ててしまうだろう。
まだ温かさを失っていないこの命を犠牲にする意味はないと思った。

坊主頭の少年は理解したのかしていないのかわからない顔でAに背を向けると家の方向に歩き出した。

あの少年は今夜どんな顔でおっかあにあの鳥を差し出すのか。そしてその返答は分かりきったものであった。その無表情からは見えない心のうちを想像し、Aは1人俯いた。