_二百十六訓 ページ25
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名の無い赤髪の少女との二人の生活はしばらく続いた。
少女の為にと街に繰り出し金を稼いで食べ物を買う。そんな少女も少しづつと柔らかいものなら喉を通るようになって言った。
「………………、人がいっぱい」
そんなある日のこと。自分も森から出たいと言い出した少女に、Aも渋ったが揺れる大きな葵瞳に負けたのだ。
「…今日は休日だし、買い出しに出かける者が多いのだような。……酔うか?」
ふるふると頭を横に振って否定をしたものの、Aの羽織るマントを握る小さな手が震えている。
そっと手を重ねると、大きな瞳を更に開かせAを見つめる少女に彼女は薄く微笑んだ。
「大丈夫」
「…………っ、ぅん」
「手、離すなよ」
二人の間には、確かに何かが生まれていた。
***
「あ、の……、」
「なんだ?」
乾いた洗濯物を二人で畳んでいる最中のこと。少女はタオルを握りしめ俯きながら小さく発した声。
なにやら言いにくそうな少女に首を傾げるA
「マミーって、よんでも…、」
「え……?」
いいですか。
消え入りそうな声で呟く少女。その少女は、街で手を繋ぐ母娘の後ろ姿に憧れた。
「……ッ、」
"家族"という、絆に。
「私は、お前の母親ではない」
「……そう、アルネ」
でも、続けるAに、少女は顔を上げる。
「姉妹って言うのはどう?」
「姉妹……」
かつて、Aの心を動かした男が楽しそうに兄の話をしていたように。
この少女も、笑顔で誰かの話をできるような…。
「江華」
「……何それ」
Aの脳裏に浮かぶ白と青い花畑。青い花の名前がAで、白い花が確かに江華だったはずだ。
「お前の名前」
「私の、名前……、江華」
あの花のように。二人でひとつ。共に過ごそう。そんな思いを込めて。
かつて自分が殺人鬼という名前を書き換えられたように。
「うれしい……ッ、」
少女、江華が初めて涙を流し、初めて笑った日の話しだ。
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美結菜 - とても面白かったです!完結おめでとうございます! (2023年2月8日 11時) (レス) @page48 id: f842e5f119 (このIDを非表示/違反報告)
Chaos(プロフ) - 長編お疲れ様でした。ありがとうございました。 (2022年4月17日 5時) (レス) @page49 id: 679f50534d (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 泣いた~誤字ちょくちょくあったけど内容とても面白かったです (2022年2月16日 8時) (レス) @page49 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
雲雀 - 新連載楽しみにさせていただきます。これからも頑張ってください! (2021年9月22日 16時) (レス) @page45 id: 69d630334c (このIDを非表示/違反報告)
雲雀 - 完結おめでとうございます(*^▽^)/すぐに読みたかったんですがなにせ中間テストの期間に入ってしまい見ることができませんでしたが、やっと見ることができました。久々なので見返しますね。改めまして完結おめでとうございます。 (2021年9月22日 16時) (レス) @page45 id: 69d630334c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なな | 作成日時:2021年5月26日 1時