_三十八訓 ページ39
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「……気に入ったか?」
彼女の好みをあまり知らない高杉は、どこか不安だったのかAに聞く。Aは本当に嬉しそうに顔をほころばせた。
「ありがとう」
Aの凛とした声が部屋に伝わる。高杉はそれを聞くなり笑みを浮かべる。
「他に欲しいやつでもそん中から選んどけ」
「いや、そんなにはッ……」
「有難く貰っとけ」
着物をじっと見つめるだけでなかなか手に取ろうとしないAを見て高杉は立ち上がり彼女の隣に立つ。
急に近づいて来たと思っているのもつかの間。ひょいひょいと次から次へ高価な着物を手に取っていく。
「ちょッ、晋助……」
「てめェが選ばねェってなら俺が選んでやらァ」
「自分勝手。あ、でもその選んでる基準はなんだ?」
「てめェに似合いそうなやつと俺の好み」
彼なりの優しさなのだろう。Aは何を言っても聞かないと思い、高杉のセンスに任せた。
着替えてこいと高杉に言われるがまま、女将に連れられ別室に。着物が初めてというのもあり珍しく少々緊張気味。
青い着物に腕を通していると、女将は作業をしながら口を開いた。
「A様の為に高杉さん、すごい悩んでいらっしゃいましたよ」
「……そうだったのか」
「はい。とても大切に思われてるんですね。少し羨ましいです」
クスクスとその上品な笑い声にAは目を奪われた。
__一瞬、ほんの一瞬だけ。自分の妹と重なったからだ。
瞬きをして現実を見る。そこにはちゃんと目の前に美人な女将がちゃんといた。
「…案外ヤンチャな子だけどな」
「あら、いつも近づけないオーラ放ってるのに…」
確かに、なんて笑い合う二人。
こんなに少しの時間で素の自分を受け入れる人は今まで出会ってきた人の中では女将は数少ない一人だろう。
ちょっとキツめの男口調に、とても器量のいい容姿。キラキラと輝く金色の髪。そして戦闘民族と呼ばれる天人。
これらが理由で“違う人”と、境界線をはられていた時もあったAは無意識に頬が緩んでいた。
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水渚桃華 - 七瀬未来さんへ まだ少ししか読んでないですがこの作品面白いです。更新待ってます。 (2020年2月20日 17時) (レス) id: 3a85905bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なな | 作成日時:2020年2月18日 19時