122話 やっぱ優しいね ページ34
去ろうとする先生を、とっさに引き留めた。
先生はどこか不思議そうな顔で私の次の言葉を待っている。
『……彼女たちは、これが終わったらそのまま家に帰されるのですか』
「うん? まあ、順当な手順ではそうだろうな」
『あの……少し、便宜をはかるよう進言していただけませんか。彼女たちの中には、家に帰りたくないと願う者がいます』
手当の最中、そう零した彼女の哀し気な瞳が頭に浮かぶ。私自身も、親ほど年の離れている男に嫁がさせられる女性のことをこのまま家に帰すことはしたくない。
でもこのお願いは、たぶんそんな綺麗なものじゃなくて。
「……分かった。伝えておこう」
『ありがとうございます』
今度こそ先生は私の目の前から姿を消した。
するとこんどはガタリと床板を外して兵助が現れる。
「三郎から伝言。あとで先輩のこと説明しろ、だって。俺もおなじく。あと八左ヱ門がついさっきたんこぶつくってた」
『勘右衛門にも言われたよそれ……ちゃんと説明するから。あと八左ヱ門には、私が行くまで冷やしといてって伝えて。たしか井戸があったはず』
「了解。……A、やっぱ優しいね」
『え? こんなの、保健委員なんだからとうぜ』
「そっちじゃなくて、先生へのお願い。聞いちゃった。俺、あそこまで考えが回ってなかった」
『あんなの…………あぁいや、うん。ありがとう』
「? じゃ、俺はこれで。あとで絶対説明しろよ」
『分かったってば。兵助もあとで手当するから、待っててね』
バレてたか、とちょっと笑いながら兵助はまた床に潜っていった。
……あんなの、ただの自己満足だ。
“私は彼女たちを助けた”と思いたいがための。
少しでも彼女たちの今後に関する責任逃れをしたいがための。
「A―! ちょっとお願―い!」
『はい! 今行きます!』
伊作先輩に呼ばれて、私はまた部屋の中に戻る。
今はただ、これが終わったらみんなの手当だ、と無理やり思考を切り替えて、このうしろめたさを誤魔化すことしかできなかった。
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炭火焼きりんご(プロフ) - あいさん» ひぃん暖かいお言葉ありがとうございます!私生活が落ち着きつつあるので、また更新頑張ります!なにとぞお付き合いを…… (2022年4月19日 19時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - これ面白いです!!! 作者さん無理のない範囲で頑張ってください☺️ (2022年4月19日 19時) (レス) id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
炭火焼きりんご(プロフ) - れなさん» ありがとうございますっ!!遅くなってしまいすみません_○/|_ そのお言葉が本当に励みになります。やっとこさ私生活が落ち着いてきたので、期待に応えられるよう更新頑張ります。本当にありがとうございます!しょもしょもしてた心の恩人です! (2022年4月19日 18時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 最高に面白いです、、完結までついていきます!!更新楽しみにしています! (2022年3月6日 16時) (レス) id: 5c55cc0d78 (このIDを非表示/違反報告)
炭火焼きりんご(プロフ) - あいさん» ありがとうございます!!あいさんのそのお言葉が栄養分となります。なめさん更新ですが、何卒よろしくお願いします! (2022年1月20日 20時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:炭火焼きりんご | 作成日時:2021年4月25日 19時