染まりゆくもの 参 【忍たま】

119話　取引先は　 ページ31

「＿＿＿＿＿＿と、いうわけだ」

先輩方の忍務は兵庫水軍からの依頼だった。

水軍のみなさんが拠点を置く港周辺に、ここ最近の深夜に複数の怪しい人がうろついていたらしい。

が、それは陸での出来事。海であれば水軍の方で取り締まれるが、陸ではそこまで手出しができない。

ただ怪しいだけなので奉行所に突き出すわけにもいかない。そこで白羽の矢がたったのが忍術学園。

そして六年生と水軍の一部で合同捜査を行ったところ、日付が今日に変わって幾分か経ったころにこの今先輩に連れられている奴がかかった。

事情聴取すると、人身売買に絡んでいるということをこの拠点が分かったと。

『女性たちは無事ですか』

「あぁ。いささか衰弱はしていたが無事だ。縄の痕はわずかに残っているが丁重に扱われていたらしい。まあ、運び方は丁重とは言い難いが」

先輩方によると、馬に下げられた米俵の中に押し込められていたらしい。

彼女たちが連れ出される前に助けられなかった私たちの落ち度もあるが、この悪党どもに対する殺意が軽く十倍増しになる。

『……取引先は南蛮ですか』

「そういうことだ」

「えっ？ なんでA分かったの？」

『こいつの顔見てみなよ。雷蔵』

「こいつって………って、あーーー！！ こいつは！！！」

縛られている奴の顔をヒョイとのぞき込みその顔を認識するやいなや、身体を引いてズビシッと効果音がつきそうな勢いで指をさす。

「こいつは……南蛮屋の若主人！！」

うううとゆっくりと顔をあげた奴……南蛮屋の若主人と目が合う。

すると若主人は先ほどまでの表情とは打って変わって、

「あなたはいつぞやの天女様！！ これは誤解なのですよ！」

と瞳を輝かせてのたまってきた。

『戯言を』

そう呟くも奴は意にも介さずペラペラと自身の潔白を示す言葉を羅列させていく。アホらしい

「だからこれがきれいさっぱり片付いたら私と結婚をしていただきたく。なぁにすぐに解決させてみせますよ私を信じてください！」

先輩、とチラと視線をやると、先輩は静かに一つ頷いた。

目を伏せて奴に近づき、ストンとしゃがんで目の高さを合わせ見つめると、奴はやっと静かになった。

そしてニッコリとほほ笑んでやると、みるみるうちに顔に花を咲かせる。

その顔にすかさず例の布を押し当てる。あの睡眠薬をたっぷりと染みこませたあの布だ。

あの賊と同じく、目の前の男の身体から力が抜け、やがて寝息を立て始めた。

「…………こいつと何があったんだ……？」

『あー………………まあその、いろいろと』

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