110話 店の奥 ページ22
『ごめんください』
「いらっしゃぁい!」
私のことを覚えていたのか、女店主の目が一瞬細められる。
そんなこんなで件の小間物屋。
前来た時とは違って、今日はちらほらお客さんが入っている。
甘味処の看板娘に聞いて分かったのだが、どうも使う簪は“特別”な簪ではないといけないようで。
しかもその簪は普通の店にはおいていないそうだ。
たしかに、あの女店主も特別だと言っていたっけ。
「あの新しくできた小間物屋でもらった子がいるって噂だけどね、うちも行ったんだけど、そんなのは無いって言われちゃって」
あ〜ぁ、なんて眉を下げため息をつきながら、看板娘は話してくれた。
もしおまじないが関係しているのなら、この店も黒だろうという結論にいたるのは早かった。
『あの、特別な簪を』
そう店主に声をかけると
「あぁ注文の品だね! 届いてるよ」
そうにんまりと笑って、ちょいちょいと手招きして店の奥へと誘導してくる。
なるほど、これなら他のお客さんにも怪しまれない。
通されたのは五畳ほどの部屋だった。小さな箱やらなにやらが置いてあるのを見る限り、在庫の管理部屋とかだろう。
換気用と思われる格子付きの窓があったのは幸いだった。これなら外で張っている八左ヱ門にも私たちの会話が届きやすい。
「それで? 好きな子でもできたのかい?」
にんまりとした目がまるで獲物を狙う捕食者のそれに見えるのは、彼女がこの事件に一枚かんでいるという私の先入観のせいだろうか。
『その、親に結婚相手をあてがわれたのですが……私にはもう心に決めた方がいまして』
「なるほどねぇ。でももう大丈夫、水神様にかかればそんな悩みからすぐに救ってくださるさ!」
『それは、本当ですか』
「もちろん! 実は前にも似たような子がきたんだけれどね、その子はおまじないをした瞬間、どこぞのお代官様が現れて玉の輿だと。家族とは縁を切って帰らずに、仲睦まじくやってんじゃないかねぇ」
へぇ、と返事をしたら私が希望を持ったとでも思ったのか、ますます口元をゆるました。
この場の空気とは裏腹に、私の心の中は冷えきっていた。おそらく八左ヱ門も。
あぁ黒だ、と。
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炭火焼きりんご(プロフ) - あいさん» ひぃん暖かいお言葉ありがとうございます!私生活が落ち着きつつあるので、また更新頑張ります!なにとぞお付き合いを…… (2022年4月19日 19時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - これ面白いです!!! 作者さん無理のない範囲で頑張ってください☺️ (2022年4月19日 19時) (レス) id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
炭火焼きりんご(プロフ) - れなさん» ありがとうございますっ!!遅くなってしまいすみません_○/|_ そのお言葉が本当に励みになります。やっとこさ私生活が落ち着いてきたので、期待に応えられるよう更新頑張ります。本当にありがとうございます!しょもしょもしてた心の恩人です! (2022年4月19日 18時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 最高に面白いです、、完結までついていきます!!更新楽しみにしています! (2022年3月6日 16時) (レス) id: 5c55cc0d78 (このIDを非表示/違反報告)
炭火焼きりんご(プロフ) - あいさん» ありがとうございます!!あいさんのそのお言葉が栄養分となります。なめさん更新ですが、何卒よろしくお願いします! (2022年1月20日 20時) (レス) id: a094e8e677 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:炭火焼きりんご | 作成日時:2021年4月25日 19時