染まりゆくもの 参 【忍たま】

90話　真っすぐ ページ2

場所は変わって兵助と勘右衛門の部屋。重たい空気。

向き合って座ってまだそんな時間は経ってないはずなのに、なんだか長いことこうしているような気がする。

ここまで互いに一言も話していない。もちろん医務室からここに来るまでも。

そのせいだろう。ここは医務室とは違った意味で、切り離された空間のように感じる。

『…………ごめん』

そんな言葉が、口をついて出た。

これは、何に対しての謝罪だろう。自分で言ったくせに分からない。

騙すような真似したこと？ この空気から逃げたいから？ 何もかも許されたいから？

あー性格悪いなぁ、私。

「いや、俺たちが聞きたいのはそうじゃなくて……」

珍しく言い淀む八左ヱ門。

「A、はさ……なんで教えてくれなかったんだ？」

『え……』

「あ、えと、昨日の朝言ってたことは覚えてるし、理解もしているんだけど……」

「僕たちには言ってくれてもよかったんじゃないかなって……」

兵助の後を雷蔵が継ぐ。

学園長先生のご指示で、そう言ってしまえば簡単だ。

けど、そうしたくない。

向き合いたい。みんなに、この全てに。

そうは思っていても、現実ではうまくいかなくて。

お互い少しずつ言の葉を交わしてもギクシャクしてしまう。

そんな中、勘右衛門が小さく呟いた。

「やっぱ、俺たちじゃ頼りない……かな」

『ちっ違う！ そんなことない！ 私が……私がッ弱いから！！』

この言葉がきっかけだった。

私はそれから堰を切ったかのように話し出した。

口を止めようとしても止まらなかった。心の中のものが全て流されていく。

自分をさらけ出すのって、こんなに怖いんだ……！

それは、初めての感覚だった。

全てを吐き出し終わった時は、辺りはシンと静まりかえっていた。

でもその静寂は、この部屋に初め漂っていたものとはまた違ったもので。

「話してくれないか、A。お前の身に起こった全てのことを。昨日のアレはごく一部にすぎないだろ」

俺たちはAのことが知りたい。

これまで一度も口を開かなかった三郎が言った。

気が付けば、五人の目は私に真っすぐ向けられていた。

私もそれに、全力で答えたい。

91話　桜のような→←プロローグ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す