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何も言えなくて、沈黙だけが辺りに広がる。ラックの顔は見れなかった。
何か言わなくちゃ、そう思えば思う程何も言えなくて。でも、今更なんでもないなんて言えなかった。
だから、ラックにされた事に、びくりと肩が震えた。
こんな面倒な事になってる俺を、抱きしめて、背中を摩ってくれた。
「……ハク、また変な事考えてるでしょ」
『なんで、』
「ボク、嫌だよ。ハクがそんな顔してるの。……やな事?ボクがなんかした?」
『……違うの、違くて。俺が、勝手に思ってるだけで。その、ごめん、何でもなくて』
言葉が支離滅裂になってきた。言いたい事が纏まらない。
考えすぎると、頭が真っ白になって、何も浮かばなくなる。焦りは、今の俺を嘲笑うかのように襲ってきた。冷たい風が身体を撫でる。でも、ラックの体温があるおかげで、身は震えなかった。
そんな俺を、優しい手付きで撫でるラック。余計罪悪感が増えて、どうしたらいいのかわからなくて。でも、その手に酷いくらいの安心も感じて。まるで泣きじゃくる少し前の子供のような感覚に、本当に目の奥がツンとしてきた。
「……ねぇハク」
耳元でする、彼の声。穏やかで、戦闘の時とは全く違う声。それが、今一番欲しかった言葉をくれた。
「好き。大好きで、愛してる。ハク、何度も聞いてきたよね。俺で良いのって。ボクはね、キミが良いの。他の誰かじゃダメ。ね、ハクは?」
沢山の、愛おしさの籠った言葉。氣が、余りに温かくて擽ったい。どうしてこんなにも、欲している物を的確にくれるのだろう。
水色の瞳に見つめられる。きらきら、俺の好きな色。空のように澄み渡った色。ふわりと揺れた黄色の髪の毛は、一際明るい星の色。それらから向けられる、余りにも真っ直ぐな好意。
全てが、俺の大好きな物だった。
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作者名:白璢 | 作成日時:2022年1月1日 20時