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「ちょっと頑張りすぎたねリヒトくん……ゆっくり休もう」
「……アナタ達はリヒトを連れて先に戻っていて」
「アル……?」
「大丈夫よ、ファナ。少しだけやりたい事があって」
空間魔法に覆われる白夜の者達にそう告げて、此方を見下げるアル。彼女の言葉に頷いた三魔眼は同じく此方に目線を動かして。
「我ら白夜の魔眼は……常にオマエ達を見ている」
そう最後に残し、黒い空間の中へと吸い込まれて行った。
頭首と最高戦力者が去り、味方が誰も居ない状態で変わらず俺達を見ているアル。奴は何を考えているのだろう。
と、ガチガチに警戒していたのに。
「さて……。少しだけお話したいのだけれど……
構わないわね?──"ルナ"」
「「「『!?』」」」
一つ、小さく風が通り抜けた瞬間。俺の目の前には、アルが居た。
「ハク!」
「ハク兄ッ!?」
黒の暴牛の皆の声。それで気が付いた。
俺の目の前にアルが現れたんじゃない。……俺が、アルの目の前に移動していたのだ。
訳が分からず、突然の恐怖に背中がサーッと冷たくなる。アルは変わらず、冷たい笑みを浮かべていた。
「そんなに怖がらないで?……ああ、今は"ハク"の方が良かったかしら?」
『……っ、な…にを……』
何故俺なのか、何故俺を"ルナ"と呼んだのか。そうぶつけたいのに、喉からは乾いた声がかろうじて言葉になったモノが出てくるだけ。
それにふんわりと笑ったアルは、変わらぬ調子で、俺が最も嫌う言葉を口にした。
「ハク……どうして?
鬼族であるアナタが……どうして人間の味方をするの?どうして私達に刃を向けるの?
ねえ……ルナ」
『は、……』
どれも理解出来ないモノばかりで。なのに、ズキズキと頭が痛んで。
"鬼族なのに"、"人間じゃないのに"。
俺は黒の暴牛が大好きで、皆も居場所をくれて。いつの間にか大切なモノになっていた。それでも、俺がヒトで無い事には変わりない。俺は人間にはなれない。
どうして人間の味方をするのだろう。言われてみれば、その通りで、自分でも分からない。
"ルナ"、ルナ。頭の中で何度も繰り返しては痛みが増す。それだけでなく、なんだか視界も歪んできてその場に立っている事も難しくなってきた。
ふらりと身体が揺れて、目の前が暗くなってきた。
閉じかけている目で最後に見たのは、自分の真っ白な髪と、青く光る"何か"だった。
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作者名:白璢 | 作成日時:2022年1月1日 20時