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彼女の体温が温かくて、目を閉じた。
瞑った視界に何も映らなくとも、静かに、Aが微笑む時の声と息遣いを微かに聞いた。
それは更に眠気を誘った。
途端に押し寄せる睡魔に、追い討ちをかけるように、Aの指先が俺の額をなでた。
『お疲れ様、エルヴィン。』
眠気の波に流され、自分の呼吸も一定に落ち着き始め、頭の中では抗うことを放棄したようだ。
それでもまだ自分の寝息が聞こえてくる中、僅かな意識が残る中で、君の言葉が聞こえた。
『…私もね、探してたんだ。』
そう言ったAの声は切なかった。
『実はね…私は、独りだったんだ。
訓練兵に志願したのは…兵士になりたかったからじゃないの、そうすることくらいしか…なかった、生きていけなかったから。』
Aが…独り?
生きていけなかった…?
『…物心ついた時から母と二人だったんだ。
けれど9歳の時…母はある日倒れて、死んだの。』
俺にも…父しかいなかったな。
『家はね…シガンシナ区なんだ。
お墓もあるけど…ウォール・マリアが陥落したあの日から、母には会いに行けていない。
帰る場所もないし…待っててくれる人もいない、私に残されたのは…兵士であることだけ。』
君を…待っている人間はいる。
A、君は、リヴァイにハンジ、ロイ、他の兵士達にも…多く慕われているのに。
─微睡みの中で、君の言葉は突き刺さった。
『…家族がね、ほしいなぁ。
ううん、家族みたいな…で、十分だから。
ここに…帰ってきてもいいかな…?』
いいに、決まっている、のに。
『…ごめんね…。』
なんで……謝るんだ?
『幸せすぎると…不安になるんだ。
エルヴィンといられることは嬉しいけど…泣きたくなるくらい、幸せすぎるんだよ…。』
君がこんな風に弱音を言うなんて初めてで、もしかしたら俺の勝手な夢かもしれないと思った。
でも、夢にしてはやけに温かい雫が肌の上に落ちてきて、それは君の涙だと理解した。
リヴァイに『泣かせるな』と言われたばかりなのに、眠気に抗えない俺は、それを止めてやることもできなかった。
『…だ、から……おね、が…い。
わ、たし、を…一人に…しないで……。』
だが、目が覚めたら君に伝えたい言葉がある。
心臓を捧げた君へ。
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氷飴(プロフ) - レンさん» コメントありがとうございます!(今私も調べてきたのですが、レンさんのおっしゃる通り“独占欲“って出てきました(ºωº`*))このお話を書いた時も調べていたつもりだったのですが、なぜか“執着”に……。教えていただきありがとうございます!(*´ω`*) (2020年4月25日 19時) (レス) id: 9625751614 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - ネックレスって独占欲っていう意味持ってるんですよ! (2020年4月25日 19時) (レス) id: 784374d164 (このIDを非表示/違反報告)
氷飴(プロフ) - にんじんさん» 一応、両想いになった後の続きも作りたいと思っているのですが…まだ考えがまとまっていない最中だったりします(´・ω・`) (2017年12月11日 12時) (レス) id: 885b609761 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - この物語はこれで終わりですか?(´・ω・`) (2017年12月10日 23時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)
氷飴(プロフ) - 京 鏡さん» そっ、そんな風に言ってもらえるなんて…思ってもみなかったよ!とても嬉しいッ!ありがとう!!頑張ります!!((o(*>ω<*)o)) (2017年11月3日 19時) (レス) id: 885b609761 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:氷飴 | 作成日時:2017年11月3日 19時