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ロイsaid
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「あれは…春でした。」
彼は、黙って僕の言葉を聞いていた。
「Aさんと、初めてお会いした日です。」
Aさんと出会ったのは、まだ肌寒さの残る春。
そういえばあの時のAさんは、今より髪が長くて…確か腰くらいまであったっけな。
髪が綺麗な人だな、と、思っていた。
初対面の時は、
『ここ、オープンして気になってたんです!
素敵な花屋さんですねっ!』
なんて、優しい声で笑って言ってくれた。
まだオープンしたての新しいお店。
まだ僕も、花が好きなだけで仕事にも慣れていない、たまに来てくれるお客さんにも慣れていない頃。
緊張した心の中に、Aさんは溶け込んできた。
「…ありがとう、ございます。」
『何もしてないですけど…どういたしまして!』
「えっと……何か、お探しですか?」
『特に探しているわけではないんですけど…花が好きで、見るのも大好きなんです!』
「…ははっ、そうですか。」
『店主さん…笑ってる方が素敵ですよっ。』
「……ッ!!」
思わず、顔に熱が集中する。
正直、言われ慣れない言葉…ではなかったが、Aさんに言われる言葉は特別だった。
急に胸が締めつけられて、困惑した。
『あ、これ、綺麗ですね。』
「…あっ、梅花黄蓮ですね!」
『…初めて聞く名前だ。』
「わりかし、珍しい花です。」
『花言葉ってなんですかっ?』
「確か…『二度目の恋』です。」
『…えっ…。』
─驚いた表情のAさんは、顔が赤かった。
それを見た瞬間、僕の心臓が嫌な音を立てた。
Aさんには想う人がいると悟ったから。
僕は気を紛らわすように、言葉を続けた。
「その花、綺麗ですよね。
…僕も好きなんです。」
『…ふふっ、そうですね!』
「…えっと、あの、よかったら、差し上げます!」
『…えっ!?』
「今、オープンしたばかりで…来ていただいたお客様にはサービスさせていただいてるところなので!」
『えっ、で、でも……』
サービスしていたのは、本当だ。
Aさんは最初は戸惑っていたが、最後には『じゃあ…一輪だけください』と押しきられた。
『…押し花にしようかなぁ。』
「押し花、お好きなんですか?」
『あっ、えっと…本の栞にしたくて。』
「あ…よかったら、作りますよ。
そういうサービスもご提供していますので…」
『えっ…本当ですか?』
「は、はい!」
『嬉しいですっ!』
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氷飴(プロフ) - レンさん» コメントありがとうございます!(今私も調べてきたのですが、レンさんのおっしゃる通り“独占欲“って出てきました(ºωº`*))このお話を書いた時も調べていたつもりだったのですが、なぜか“執着”に……。教えていただきありがとうございます!(*´ω`*) (2020年4月25日 19時) (レス) id: 9625751614 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - ネックレスって独占欲っていう意味持ってるんですよ! (2020年4月25日 19時) (レス) id: 784374d164 (このIDを非表示/違反報告)
氷飴(プロフ) - にんじんさん» 一応、両想いになった後の続きも作りたいと思っているのですが…まだ考えがまとまっていない最中だったりします(´・ω・`) (2017年12月11日 12時) (レス) id: 885b609761 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - この物語はこれで終わりですか?(´・ω・`) (2017年12月10日 23時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)
氷飴(プロフ) - 京 鏡さん» そっ、そんな風に言ってもらえるなんて…思ってもみなかったよ!とても嬉しいッ!ありがとう!!頑張ります!!((o(*>ω<*)o)) (2017年11月3日 19時) (レス) id: 885b609761 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:氷飴 | 作成日時:2017年11月3日 19時