第1話 ページ2
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出ていくにしては軽すぎるバックを持ち上げて、なんか軽いなこれ、と他人事のように思う。
『じゃあ行ってくるね、太刀川さん』
「おー、忘れ物ないか?」
『ないと思うよ、太刀川さんじゃあるまいし』
「最後まで失礼だなお前」
私は玄関までの短い廊下で意識して笑顔を作ってから玄関の扉を開け、振り返る。
『……じゃあ、レポートちゃんとやってね』
「うーん」
『やる気ないでしょ』
「まあ……ある」
『絶対嘘じゃん………えーっと、ご飯ちゃんと食べてよ』
「おう」
話しているうちに寂しさが心の隅に湧いた。泣けないくせに、今なら少し泣けそうだと思った自分に少し自嘲する。
『忍田さんに迷惑かけないでよ』
「かけたことない」
『いやいや、ないわけなくない?』
それもそうか、なんて笑いながら認めてしまう太刀川を見て、Aはぎゅ、とドアノブを握る力を強めた。
ここで立ち止まったら進めなくなる。
『じゃあ、元気でね、太刀川さん』
「おまえもな」
うん、と返事をして扉を占める。
なんとなく足が動かなくて、しばらく扉の前に立ったままでいた。
しばらくして、ガチャ、と鍵を閉める音が聞こえる。
もう、この家の鍵は持っていない。
エレベーターに乗り込みマンションを出て傘を開き、もう一度部屋の方を振り替える。
その日は大雨の影響で視界が悪く、顔を上げた私の目に映ったのは今にも落ちてきそうな重たい雲と顔を濡らす雨だけだった。
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天(プロフ) - 君の瞳に鉛弾さん» コメントありがとうございます!関係性はゆっくりゆっくり変わっていっているのでそこに気がついてもらえてとても嬉しいです。これからも遅めのペースにはなりますがしっかり更新していきたいと思うので、ぜひこれからもよろしくお願いします! (2021年7月1日 17時) (レス) id: b90335b0cc (このIDを非表示/違反報告)
君の瞳に鉛弾 - もうただひたすらに三輪くんと主人公の関係性変化に至る過程が大好きすぎて…三輪くん長編で完結してる作品て全然無いので余計にこれからの展開が楽しみです。作者様の負担にならない程度の更新を気長に待ってます。 (2021年6月30日 23時) (レス) id: 04b80a02c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天 | 作成日時:2021年6月28日 20時