検索窓
今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:16,897 hit

第1話 ページ2

.

出ていくにしては軽すぎるバックを持ち上げて、なんか軽いなこれ、と他人事のように思う。


『じゃあ行ってくるね、太刀川さん』
「おー、忘れ物ないか?」
『ないと思うよ、太刀川さんじゃあるまいし』
「最後まで失礼だなお前」


私は玄関までの短い廊下で意識して笑顔を作ってから玄関の扉を開け、振り返る。


『……じゃあ、レポートちゃんとやってね』
「うーん」
『やる気ないでしょ』
「まあ……ある」
『絶対嘘じゃん………えーっと、ご飯ちゃんと食べてよ』
「おう」


話しているうちに寂しさが心の隅に湧いた。泣けないくせに、今なら少し泣けそうだと思った自分に少し自嘲する。


『忍田さんに迷惑かけないでよ』
「かけたことない」
『いやいや、ないわけなくない?』


それもそうか、なんて笑いながら認めてしまう太刀川を見て、Aはぎゅ、とドアノブを握る力を強めた。

ここで立ち止まったら進めなくなる。


『じゃあ、元気でね、太刀川さん』
「おまえもな」


うん、と返事をして扉を占める。
なんとなく足が動かなくて、しばらく扉の前に立ったままでいた。
しばらくして、ガチャ、と鍵を閉める音が聞こえる。


もう、この家の鍵は持っていない。
エレベーターに乗り込みマンションを出て傘を開き、もう一度部屋の方を振り替える。

その日は大雨の影響で視界が悪く、顔を上げた私の目に映ったのは今にも落ちてきそうな重たい雲と顔を濡らす雨だけだった。

第2話→←設定



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (69 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
459人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - 君の瞳に鉛弾さん» コメントありがとうございます!関係性はゆっくりゆっくり変わっていっているのでそこに気がついてもらえてとても嬉しいです。これからも遅めのペースにはなりますがしっかり更新していきたいと思うので、ぜひこれからもよろしくお願いします! (2021年7月1日 17時) (レス) id: b90335b0cc (このIDを非表示/違反報告)
君の瞳に鉛弾 - もうただひたすらに三輪くんと主人公の関係性変化に至る過程が大好きすぎて…三輪くん長編で完結してる作品て全然無いので余計にこれからの展開が楽しみです。作者様の負担にならない程度の更新を気長に待ってます。 (2021年6月30日 23時) (レス) id: 04b80a02c7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2021年6月28日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。