014.お風呂 ページ14
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あいつが寝てる間に風呂に入る。
一人暮らしだから湯船にお湯をためることはたまにしかない
シャワーでチャチャッと体を流して、顔を洗ったり
化粧水をしたり。
Aといると、昔を思い出して切なくなる。
きっともうあの関係には戻れない。
言い出しっぺは俺だから。
無理をするAを今すぐにでも抱きしめてやりたかった。
……でも今の俺は恋人でもない、ただの友人
そんな無責任なことすら出来ない。
辛いけど、辛いけど、
俺はAと入れればそれで良かった。
例え結ばれなくても、楽しく過ごせたらそれで。
「すぅ……すぅ……」
俺のベッドに寝るAを頭をタオルでゴシゴシと拭きながらみる。
いつもより気をつかって音を立てないように
飲み散らかしたテーブルを片付けると
『あ』
高校生の時、お互いに作りあったミサンガが
Aの筆箱に着いているのに気づいてしまった。
1度切れて捨てられなくてストラップにしたんだと勝手に想像したけど
大切にしてくれているだけで十分だ。
……自分は舞台でずっとつけてられなかったから
楽屋で切ってそれきりどこにあるかも分からなくなっていたから。
懐かしさて胸がキュッとする。
いつも元気なAがさっきポロッと零した愚痴も
凄く苦しそうに見えたし
金銭的な問題。権力も上な事務所相手に
挫けることなく前だけを見て
ポジティブに捉えようとしているけど、それか自分を追い詰めていることにきっと気づいていない。
何かと話題なボイター事務所
噂を聞いた時、いてもたってもいられなかった。
ボイター事務所所属の後輩が泣きじゃくっているのを
西山や安元さんと背中をさすって慰めていたからこそ
過酷さがわかる。
その後輩がこんなことを言っていた。
___「大事な役が決まっても、需要なしと判断されたら降ろされる」
その言葉とさっきのAの発言
……「はあ、私も主人公とかやりたいなぁ」
点と点が線で繋がった気がした。
枕とか、芸能界でもよくある裏の世界
無縁だと思っていたけど、こんなにも身近にあるのには驚く。
__「1時間くらいしたら起こして……」
今はもう、寝かせてあげよう。
近くによって、はだけた布団を直してあげた。
これしか出来ないから。
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作者名:にむ | 作成日時:2021年9月8日 13時