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あの人が触れた髪も、頬も。

雨の中ただ呆然と立ち尽くす私には、どうでもよくて。


自分が抱いていた感情が冷めていくのを感じる。




本当は、あの人のことだってわかっていた。

わかりきっていたからこそ、言いたくて。


__伝えたくて、仕方なかった。



あの人が心変わりするかもしれない。

同情してくれるかもしれない。



そんな風に彼を捉えていた私は、最低なくらい惨めだった。



たった一言、言って欲しかった。


『ありがとう』じゃない言葉がよかった。

あなたにそれを求めた私は馬鹿かもしれないけど、あなたは私よりずっと馬鹿だ。



私の精一杯の言葉を一言で流した癖に、触れるその手は忘れられないくらい、優しくて。




やめてよ。


そう半ば泣き叫ぶように言った私を無視して。

男子にしては綺麗な、それでいてしっかりした手が私の髪を掬う。


そんなことをされてしまったら、私はこの気持ちをどこにぶつければいい?



わからなかった。


悲しいのにおかしなくらい跳ねる心臓が腹立たしい。



ぼろぼろと涙が溢れる。


困ったように眉を下げる彼が、頬を伝うそれを拭った。


その手は、とても温かかった。

もう少しだけ、君のその温度に触れていたかった。




けれど、それは唐突で。


「ごめんね、もしも俺が__」


そんな仮定の話は聞きたくない、と彼の手を振り払った。


何も言わずにその横をすり抜ける。



最後に見たのは、なんだか滑稽な及川徹の顔。


__こうして、私の何度目かの恋は終わったのである。



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作者名:ヰ都 | 作成日時:2017年9月30日 22時

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