検索窓
今日:41 hit、昨日:23 hit、合計:9,261 hit

9話 忘れたい、忘れたくない ページ10

それから数日後、普段通りの時間に目を醒ましたというのに風見さんが居なかった。彼は仕事ならそう書き置きする。僕がご飯を作り始めてからは、より細かくその日の予定を教えてくれている。

書き置きも、本人もいない状況に少し困惑する。

コンビニに行っているとか?すぐに帰ってくるつもりなら書き置きがなかったのも……いや、真面目過ぎるところがあるからそれも書き置きしそうだ。

『あ、』

なら何処に?なんて考えながらキッチンに行くと、幾つかの缶が干されているのを見つけた。全てアルコールの入ったものだ。自分が飲んだ覚えはない、それどころか死んでから酒の類いを一滴も口にしてないし。

『なんだ寝坊か』

彼でも気が緩むことはあるんだなぁ。そういえば、今日は全休だと言っていた気がする。ならゆっくり休ませてあげるべきか。



簡単に朝御飯を食べ(風見さんのも作ってある)、いつものようにベランダに椅子を出す。まだ1人で外に出る勇気はでない。あの、虚しくて悲しくて、それでいてほんの少し嬉しい、複雑な気持ちになることが少し怖いのだ。

椅子に深く腰かけ、背もたれに体を預ける。朝の涼やかな日に当たりながら目を閉じた。

そうして浸るのは死ぬ前の記憶だ。

何処で間違えた、何処から相手の掌の上だった、どうすれば守れた、どうすれば死ななかった‥‥
何処で、どうすれば、それの繰り返し。正直言って気が滅入りそうになる。だけど、辞められない。

辞めてしまえば、僕はきっと死ぬ前のアレコレを全部過去のことにして、忘れようとする。仲間の奮闘も、彼女との約束も、アイツへの恨みも全部。そんなのはダメだ絶対に。

ダメなんだ。辞めちゃいけない。なのに、今の僕の目蓋の裏には、先日の公園の風景が広がる。子供達の笑顔、それを見守る大人、元気に駆け回るコナンくん達。

消し去ろうとしても何度も蘇る風景に、しだいに苛立ちがつのる。

『くそっ』

「数住?またベランダに居るのか」

『‥‥いつからそこに』

「ついさっきだ。朝は冷える。中に入れ」

風見さんは僕の悪態を聞いていたはずなのに、何も聞かずに心配してくれている。彼も薄着で寒いだろうにわざわざ戸まで開けて。

風が吹き、小さく「さむっ」と聞こえてきた。中から声をかければ良かったのに。

「いつもベランダに居るが何か意味があるのか?」

動かず喋らずの僕にしびれを切らしたのか、話題を変えることにしたようだ。

『それは‥‥』

10話 また今度→←8話 鋭い視線



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (24 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
89人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鮟鱇 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2022年10月6日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。