14話 夢でしょう ページ15
支度をしながら時計を見れば10時を過ぎていた。
ゴミ出しを任せてしまったなぁ。
「お前の朝ご飯は道中で買おう」
『風見さんはもう食べました？』
「あ、あぁ」
何故か返事を吃る彼にまさかとシンクを覗けば、案の定使った形跡がこれっぽっちもなかった。ゴミ箱も空だしこれは食べてないに違いない。
「いや、その、」
『簡単なものなら作りますよ』
「‥頼む」
呆れた顔を向ければ、正直に白状してくれた。僕が起きるまでゲームをして時間を潰していたらこの時間だったとか。
朝ご飯を期待してくれていたことに喜べばいいのか、生活能力の低さを心配すればいいのか‥‥。
「なにか手伝うことはあるか?」
『あー、トマトを‥っ！』
「？トマトだな、分かった」
まな板に包丁にと準備している中、声をかけられ振り向けば案外近くにいた風見さんに驚いてしまった。近くと言っても子供一人分は離れていた。だというのに、手の包丁を振り上げかけるくらいには警戒してしまった。
夢のせい、なんだろうか。風見さんの一挙一動に警戒してしまうのは。それとも僕が彼を信じきれていないだけ？
「他に何かあるか？」
『いえ、あとは焼くだけなので‥』
受け取ったトマトを小さく切り、ピザソースを塗ってソーセージやピーマンを乗せた食パンに追加する。そこにチーズを被せてトーストで焼けば完成だ。
ﾁﾝ、と気の抜けた音とともに焼けたパンのいい匂いが部屋に広がった。
「俺が運ぼう」
その言葉に甘えて先に席で待っていれば、向かって斜め前に配膳された。いつも真正面に座っているのに珍しい。
「嫌な夢でも見たんだろう？」
そんな考えが顔に出ていたのか、そう聞かれた。驚いて手を合わせたまま固まる。またその驚きが伝わったのかフハｯと笑われた。
「ずっと顔色が悪いぞ。俺が真正面に座ったら倒れそうなくらいにはな」
すぐに真面目な顔に戻ったかと思えば、続いた言葉から気を使われていたことが分かった。ああ、俺はなんでこんないい人を警戒しているのか。
申し訳無さで頭から血の気が引いていく。
「お、おい！本当に大丈夫か？」
『大丈夫です。本当に、なんともない。
ただたしかに悪夢は見ました。こめかみを撃たれる夢を』
「それはまさか、」
『いや、ただの夢でしょう。もしあれが本当にあった出来事なら、僕は死んでいるはずですしね』
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