12話 おはよう、ネズミちゃん ページ13
ふと気がつくと、僕はお洒落なバーのカウンター席に腰掛けていた。隣にはピアスを大量につけたいかにも悪そうな男が一人。
「飲まないのか?それとも飲めない理由があるとか?」
男にそう言われ手元を見れば小さめのグラスに淡い黄色のカクテルがあった。
そうだ、僕は組織に忠誠心を疑われ、妻を人質に取られていたのだった。目の前の怪しげなカクテルを飲まなければ妻は殺されるだろう。
『アルコールは好かないんだが』
「そうか、お前弱かったんだっけな。ま、一口くらいならいけるだろ。せっかく誂えた特別性だ、飲んでくれなきゃ損した気分になる」
『…分かったよ』
飲むふりをしよう。一口なら減っていなくてもバレづらいはずだ。唇を濡らすくらいで留めておけば、
『っ!?』
カクテルが口に触れた瞬間しびれが走った。そして段々と全身の力が抜けていき、持っていたコップを落としてしまう。
『な、にを』
「浸透性の高い筋弛緩剤さ。最近開発したばっかりでな?取り扱いめちゃくちゃ難しいんだよ」
座っているのもやっとな状況の中、男が俺の腕を掴み立たせようとする。
『触るな!』
「おっと。
まだまだ元気だな。やっぱり少量じゃこの程度か。追加な」
至近距離であることを利用して蹴り上げようとしたが、力が上手く入らず受け止められてしまった。そして最悪なことにそのままバランスを崩し倒れ込んだ。
そんな状況の僕に男は注射針片手に近づいてくる。追加という言葉通りなら、あれは筋弛緩剤だろう。
冷静に状況を把握しようとするも、腕に小さな痛みを感じたあと、ゆっくりと視界はブラックアウトしていった。
次に目が覚めたのはどこかの倉庫だった。口には酸素マスクが取り付けられ心なしか息苦しい。身体はピクリとも動かない。
「気分はどうだ、なんて聞くまでもないか。
おはよう、ネズミちゃん。せいぜい痛がってくれ」
『ッ!』
男の言葉を理解するよりも先に右脚に痛みが走った。足元に目線を動かせば、何かを突き立てる男の姿が見えた。薬のせいで口も喉も動かせず声が出せない。痛みを耐えようと歯を食いしばることも当然出来なかった。
「動けないからあんま意味ないけど、やっぱ足からだよな」
その言葉と同時に今度は左脚に痛みが走る。
「じゃ、次はこの映像と同じことやってこうか」
そうして見せられたスマホには妻の姿があった。まさか、と思った次の瞬間、映像の中の男がそのふくらんだお腹を、子供がいる場所を拳銃で撃った。
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