11話 会いたい。でも ページ12
その日の夜、明日も半休だからとお酒を飲む風見さんのために僕は付け合わせを作っていた。
「お前は飲まないのか？」
背中越しにかけられた言葉に少し悩む。
死ぬ前は、いつ何があってもいいようにアルコールの入ったものは控えていた。だが今は警戒しておくべき敵も、備えておけと指示を出す組織もない。だから、この誘いには乗るべきなのだろう。
しかし、染み付いてしまった癖のためか頷くことを躊躇ってしまう。
「飲まないならそれでいいぞ。俺も完全に羽目を外すつもりはないしな」
なかなか返事しないからか、はたまた悩んでいることを悟ってか、気遣いに満ちた言葉を追加されてしまった。
『‥いや、少しだけ貰います』
「そうか？無理はするなよ」
調理が終わり、テーブルに並べて僕が着席したと同時にビールの缶を差し出された。それを礼とともに受け取りプルタブを開ける。ｶｼｭｯという軽い音を聞いたのはいつぶりだろうか。彼女の妊娠が分かってからはビールを飲んだ覚えがないからなぁ。
「奥さんのことなにか思い出したか？」
『え？』
「優しい顔してたから、もしかしてと思ってな」
そんな顔、してたのか。
「今じゃなくても言いたく、」
『ビールが、
彼女はビールが好きだったみたいです』
「‥そうか。ならお前もよく飲んでいたかもしれないな」
『かもしれないですね』
明日の半休で買い物に行くだとか、ゴミを出さないとだとか、そんな他愛ない話をしていれば、一缶なんてあっという間に飲み終わった。
まだ飲むかと誘われたが今度はちゃんと断り、追加でオツマミを作ったあとは寝支度をした。
「数住、お前の奥さんは…
いや、何でもない」
『えぇ、そこで止められると気になるじゃないですか』
「…奥さんに会いたいか？」
『それは、』
会いたい。でも会えるわけがない。
自分はどういうわけか死んだあともこの世界で生きているが、彼女もそうである可能性は低い。
彼女は、お腹の子と一緒に死んだのだ。それは変えようのない事実だし、今もその最後が脳裏に焼き付いている。
この世界で再開できるかもしれない、なんて変に希望を持ってしまえば、僕は正気を保っていられないだろう。僕のせいで苦しい思いをさせた。僕のせいで我が子を殺された。僕のせいでまた…
「数住？」
『あ〜、記憶を取り戻してみないと分からないです。もしかしたら離婚してるかもしれないし』
「そうだな。まずは思い出すところからか」
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