とある研究員の資料 2【実況者】 (ページ9)

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▶︎桃の天の声ページ9

『かわいそう』と『かわいそう』。何が違うのか説明を求めたい。

「同情を煽るなんて、卑怯だと思わないかい？」
「事実を言うて何が悪いん？」

彼は一つも悪びれず言葉を続ける。

「先生がずっと来てくれへん、先生やない人らは俺の話を聞かへん、ずっと独りぼっち･････。な？誰がどう見ても可哀想やろ」

天、と書かれた布の向こうの声からでは、真意がよくわからなかった。

「別になぁ、俺はカワイソウって思ってほしい訳やないんよ。てか、そう思われる方が嫌やし」
「可哀想と思ってほしいのに可哀想と思ってほしくない、か」

よくわからない。感想はそれだけだった。

「あ〜ちゃうて、先生。俺が思ってほしいんは可哀想。カワイソウやない」
「はぁ？何が違うかまるでわからないな」

余りのじれったさに顔を歪めると、満足げな笑い声が布の奥から聞こえた。

「あっははっ、まぁ知らへんやろなぁ。その二つの違いなんて」

その笑い声に、ぞっとした寒気を感じた。

「で、先生は俺のことどう思ってくれるん？」
「どうって、君の期待通りの返事は返せないが？」
「はぁー意地悪やな、先生」

やれやれ、といった様子で彼は肩をすくめる。

「人間なら、少しは煽られると思うんですけどー？」
「調査対象に慈悲なんて、そんな下らないものある訳無いだろ」
「うわ、先生俺よりも心無いんちゃう？」

面をめくった彼は顔をしかめる。

「別に、君を気にかけることが無駄なだけだ。人は感情的になれば正常な判断が下せなくなるからな」

顔をしかめていた彼が、今度はすっと桃色の瞳をすがめる。

「それの何が嫌なん？」

冷たい冷たい目が、私を射抜く。

「先生なら、俺が導いてあげんで」

一見優しげに見える言葉は、私を内側から破壊する。

「････わからなければ、別にそのままでいいだろ」