花火の夜 ページ25
ym side
待ち合わせ場所に現れた彼を見た時 、頼んでよかったと心から思った。どうしても浴衣姿が見たい!とゴリ押しでお願いしまくった結果渋々着てくれたんだよな。
深い紺色に薄らと麻の葉模様が入った浴衣に、白の帯。暗い色の生地から覗く真っ白な腕と首筋が更に魅力を際立たせる。
『山田、浴衣似合ってるね。さすがイケメン。』
ちなみに俺の浴衣は黒の生地に縦縞が施されてて、帯は少し暗めの赤色。
当初は着る予定無かったんだけど、俺だけ着るのは恥ずかしいから!って伊野尾ちゃんに言われて、棚の奥から探し出したやつ。
「伊野尾ちゃんも、最高に似合ってるよ」
『ほんとかぁ?』
「ほんとに決まってんじゃん」
『ん、ありがと』
微かに耳を赤く染めながら照れくさそうに笑う姿が愛おしい。今まで大嫌いだった"運命"という言葉も 伊野尾ちゃんが相手なら悪くない。
そう思えるほどに、夏休みの期間で彼を想う気持ちもどんどん大きくなっていった。
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ずらりと並ぶ屋台と、大勢の人々。
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『腹減った〜、焼きそば食いたい!』
『たこ焼きもいいなぁ』
『いちご飴美味そう』
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子供のように屋台に目を輝かせながら、逸れないようにと互いに繋いだ手を引いて向かう先は食べ物の並ぶ店。
その華奢な身体に見合わないくらいよく食うし、何でも美味そうに食べるのよ、伊野尾ちゃんは。
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『山田もいる?』
「ん、ちょーだい」
爪楊枝に刺さったたこ焼きを口元に差し出される。
一口で頬張ったそれは熱かったけど 今まで食べた中で一番美味かった。伊野尾ちゃんに貰ったからかな?つって。
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幸せな空気に包まれたまま、2人で行った初めての夏祭りもあっという間に終盤を迎えようとしていた。
運良く空いていたベンチに2人並んで腰を掛ける。
夜空に咲き乱れる大輪の花は 夏休み最後の思い出に相応しい美しいものだった。
『…俺、やまだの隣に居れて幸せ者だな』
花火の音が鳴り響く中掻き消されることなく聞こえた伊野尾ちゃんの声。唐突にそんなこと言い出すもんだからびっくりした。
「え?」
『なんでもなーい』
… いや、はっきり聞こえてたんですけどね
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隣で夜空を見上げている彼の肩を抱き寄せる。
「伊野尾ちゃん 好きだよ」
『俺も 好き』
互いにそう伝え合った瞬間 フィナーレの大きな花火が打ち上がり、そのタイミングがあまりにも良すぎて、まるで恋愛ドラマのワンシーンのようだった。
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作者名:猫 | 作成日時:2023年3月1日 20時