君を、想ふ -北藤-

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「……ん」

姫が目を覚ましたっ！

「……え、誰？」

駆け寄ろうとして、その言葉に動けなくなった。

「…姫？」

「…それが、俺の名前？」

俺の事も…自分の事も分からないのか？

「…痛っ」

起き上がるから、ケガが痛くてまたベッドに逆戻り。

「藤ヶ谷っ、動くなっ」

「痛い〜…なんでぇ？ここどこぉ？」

「ここは病院だ。頭殴られて運ばれてきたんだよ。ジッとしてろっ」

「…帰らなきゃ」

「え？」

体を押さえていた手を突き放される。

「どこか分からないけど…でも、帰らなきゃ。待ってる人…がいるんだ」

振り返ると、巽さんが苦笑い。

「藤ヶ谷さんは、スーパーの帰りに通り魔に襲われたそうです。そばには…これが」

買い物の帰りに襲われて…その時のスーパーの袋を渡される。

中身は…野菜とたくさんの…肉。

俺の…大好きな、肉だ。

「姫…」

涙が溢れる。

「帰らなきゃ…帰らなきゃ」

そればかり繰り返してる。

「ちょっと、いくつか質問していいかな？」

真砂先生が聞いたのは、基本的なこと。

今、西暦何年で何月何日。

名前、年齢、住所、仕事、親友、好きな食べ物…。

ありきたりなことを聞いていく。

時間は、姫の中では合ってる。

ただ、名前、自分の職業…何も分からないという。

「ねぇ…帰ってもいい？」

自分の名前も俺のことも覚えてないのにただ、家に帰りたいと訴える姫。

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