声を失った姫 -北藤- (ページ20)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:46,884 hit

20 ページ20

～宏光Ｓｉｄｅ～

もしかしたらいないかも…と思ったけど、余計な心配だったようだ。

たいが自分の声に似てるとノートに書いていた。

それが声が出なくなった原因の一つでもある、と。

「名前、言ってみて」

相手と一定の距離を取って聞いた。

横尾さんと巽さんは隅っこで俺の行動を見守っている。

「…白石時生」

ときお…いい名前じゃん。

「藤ヶ谷に近づいたのはなんで？」

「彼女が…俺の声が藤ヶ谷に似てるって言うから」

呼び捨てかよ。

「それで？」

「付き合ったけど…やっぱ違うって言われて…」

そりゃそうだろ。お前は藤ヶ谷じゃないんだから。

「振られたのは、藤ヶ谷のせいだ」

は？なんでそうなる？

っていうか…さっきから聞いてるけど。

「全然違うな」

「違う？」

「ああ。あんたの声は全然、藤ヶ谷の声と似てない。話し方も声のトーンもクセも、全然、どこも似

てないよ」

「なんで…そんなこと分かるんだよ。ちょっとしかしゃべってないのに…」

「俺はずっと、あいつのそばにいて、あいつの声を聞いて、いつも一緒に歌ってきたんだ。一分だろ

うが１０秒だろうが、聞けばすぐに分かる。似てない。全然違う」

「違わない」

何でだ？シンメの俺に似てると言わせたいのか？

「俺と藤ヶ谷の声は同じなんだ。一緒なんだよ」

なんで、声に拘る？

「だから、違うって言ってんだろっ」

俺もこの白石も藤ヶ谷と呼んで会話するから、ややこしいな。

それは、横尾さんも感じたみたいで…。

「みつ。太輔って呼んで会話してよ。分かりにくい」

案の定、横尾さんに言われて苦笑い。

横尾さんは聞き手に回るらしい。

巽さんは戸惑ってる。

２人で話したかったからちょうどいいけど。

「顔見たこと無いけど、どこの局のスタッフ？」

「どこのスタッフでもない」

不法侵入か？

「１年ほど前にここでバイトしてた。その時に返し忘れた許可証で入ったんだ」

素直に自分の犯行を認める。

「太輔のマネージャーになりすましたのは？」

「記者の人が話してるのを聞いたんだ。藤ヶ谷のマネージャーがいないと取材ができないって。だか

ら、なりすまして、潜り込んだ」

その幼い顔でよくマネージャーだと言えたな。

っていうか、周りも信じたものだ。

童顔過ぎる。俺に言われたくないって？

見たら、普通分かるよ。子供かそうじゃないかなんて、見ればすぐ分かるのに…。