心はガラスでできていた

プロローグ ページ1

騒々しい人々の声が、遠くから聞こえる。

誰かを求め、誰かを欲する…

欲深く、愚かな…人々の声が。

『アッハハ♪まだ…まだだよ。応えてあげない。俺が乗らないんだから、仕方ないよねぇ？』

青年は、そんな声を無視するように…

『静かにしてほしいよ。…今、とっても面白いんだからさぁ？』

今日もまた、PCと向き合う。

今日立つ、ステージ衣装のままで。

鼻歌なんかを歌いながら。

そんな時…彼の背後から、すっと影が伸びる。

身長は彼と同じくらいだが、彼とは随分違う雰囲気を放つ…

凛とした佇まいをした、青年の影が。

しかし、その影の持ち主は何も言わず…

青年の背後に付き従うだけで…何も言わない。

『なーに？俺、今忙しいの。用なら後にしてくれる？』

そんな彼には、心を開いているらしい。

視線はPCに向けたまま…青年がそう言うと…

『…特にない。ライブもしないならのなら、俺のすることはお前の護衛だけだ。』

影の持ち主は静かにそう返し、視線を外へとやった。

面白くない。

そう思ったのは、その瞬間だった。

『やーめた！敵になる奴すらいなくなったし。暇潰ししよっーと…付き合って？』

青年はさっきまで夢中になっていたPCを放り投げ…

立ち上がる。

『…わかった。』

それに応えるように、影の持ち主もまた…さっさと先を歩きはじめた彼の背を追いかけた。

捨て去られたPCに開かれたネットチェスのサイトには…勝利の文字が並んでいる。

もう、青年の憂鬱を晴らす機械にはなり得ない。



『さぁ、時間だ。暴れてやろうかなぁ♪』

『…お前の好きにしろ。』

憂鬱を嫌う彼と、付き従う者。

正反対のようで、似ている2人の青年。

これは、そんな2人の摩訶不思議な物語。

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