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孤毒に侵される ページ50

とあるホテルでAは、苦しそうに息をした。
実は、数十分前からこのような状態が続いている。
カーテンが閉められている密閉された空間で、荒々しい呼吸を繰り返す。

フックでは無い方の手を眉頭に押し当て上を向き、ベットに寄りかかるようにして座っている。
制服のブレザーはベットの上に乱雑に放り出され、今にも肌に張り付きそうなシャツは第二ボタンまで開けられている。


「私は......、私は...、」


その後に続く言葉は、"誰だろう"と言ったテンプレートなものなのか。
または、別のことだろうか。

部屋の時計は故意に電池を外されており、動いてはいなかった。
カウンターテーブルに置かれた小さな時計の砂は全て落ちきっている。

スマホにはスミスからのメッセージが、通知として表示されていた。
スマホによってページが固定されている予定帳には、1週間をきったとある日にマルとバツが交互に折り重なってぐしゃぐしゃになる手前だった。

いつも持ち歩くような鞄からは、薔薇の王国行きへのチケットが顔を覗かせていた。
Aが、早めに買っておこうと1週間後のものを買っておいたのだ。


ケイトとAは、今は友達と言えるような関係だが、昔は違った。
誰よりも早くケイトの本性を見抜けたAは、彼の心を自由にさせてあげたいと願ったのだ。

期待は裏切られるものだ。

誰よりも助けたいと願っていた彼は、ケイトも知らない形で裏切ることとなった。
その傷はAの過去の記憶を掘り起こすと共に、ある種の呪いを植え付けた。

ケイトと薔薇の王国を回ることは、帰省中の彼を少しでも自由に出来ないかと思ったAのエゴである。

そして、今、Aはその判断に頭を悩まされることとなった。


「私は...、悪役(ヴィラン)だ。
ずる賢く残忍な...、悪役のはずだ。

いまさら優しくしようだなんて馬鹿だな...」

通る道に人がいれば、躊躇なく誰であろうと切り落とし道を開ける。
自分に害なす奴がいれば、必ずこの手で首を取る。

そうして、
そうすることによって、
誰かが私を憎んで倒す。

そいつが上へと成長すれば役目が終わる。

縁が切れたような父の言葉を、誤った方向へ解釈し、
未だに己の信念として忠実に守ろうとしている。

優しさを切り捨てようとして
でも、誰かのことを気遣ってしまう。




「誰か、......」


優しくしないように、
優しくされないように、
真反対の気持ちに蓋をして
助けてくれ、の五文字を閉じ込めた。

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作者名:あかまる | 作成日時:2022年5月21日 17時

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