カクシゴト ページ43
スミス「...私は、船長から監督生さんについて任されています。」
だから、へとへとに疲れている監督生さんを目の当たりにして、背中を向けるわけにはいかない。
そして、その原因が親友のカリムだとしても逃げてはいけない。
ジャミルさんは困ったような作り笑いを貼り付けている。
優しい言葉がいつ崩れるか怖いところではあるが、自分がいればなにか役立つことがあるかもしれないと思ってはくれないだろうか。
突然、ズボンの後ろポケットにしまい込んでいたスマートフォンが、着信音を鳴らした。
すみません、と一言入れて画面を見ると船長の名前が映し出されていた。
監督生さんが、羅針盤で助けを求めた件について聞かれることは既にわかっていた。
まだ解決出来ていないことを、なんて言い訳するべきか悩みながら、電話のマークを右へとスライドさせた。
スミス「はい、もしもし...。監督生さんの件なのですが...、」
『今、どこにいる?』
自分の声を聞いたからか、要件だけを簡易的に伝える。
...船長が言い訳などのだらだらした話は聞かない性格だったことを今、思い出した。
スミス「それが、スカラビア寮にいるのですが...、部外者の私は入れないみたいで...」
『スカラビア寮なら、お前の友達が寮長を務めているところじゃないか。』
そのカリムが暴君を繰り返していて、バイパーさんに断られていると伝えれば、バイパーに変われと返ってきた。
スマホを耳から少し外して、バイパーさんを見れば腕を組んだまま険しい表情をしていた。
スミス「あの、船長が変わって欲しいと...」
相手の機嫌を損なわないようにと用心深く注意しながら、慎重に手渡す。
ありがとう、と一言お礼を言われたため、少し安心した。
ただ、バイパーさんが本当にそう思っているかどうかは判断できない。
ジャミル「変わりました、ジャミル・バイパーです。」
『…あぁ、バイパー家の子か。俺様は、A・ジェームズだ。』
船長の声を聴くなり、バイパーさんの顔が険しくなった。
寮生たちが自室へ向かう中、人気のないところへ歩いて行った。
なにか、聞かれてはいけないことだったのだろうか…?
あるいは、とは考えたくないが、バイパーさんと個人的な交流があるならば。
しきりに、船内の寮生たちの会話を思い出す。
そのたびに、せめて一言私に行ってほしいのに、と出過ぎた考えが心の中を駆け巡り不安になる。
隠し事ばかりでは、船長が困ったときに助けられないのに…。
102人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あかまる | 作成日時:2022年5月21日 17時