羅針盤を開くと ページ41
ホリデーが始まり、何日目かの朝を迎えた。
スミスは、大量に買ったうちの一つであるカップラーメンにお湯を注ぎながら、退屈そうに欠伸をしていた。
栄養バランスは取れていないが、これが一番手軽でおいしいのだ。
料理スキルが備わっていないスミスからすれば、お湯を注ぐだけの麺は失敗することがないのだ。
こういうことを想定して、マスターシェフに参加しておけば良かったと毎日思う。
臆病で人見知りな自分が誰かとペアになることは到底信じられないけれど、
やってみる価値はあることは知っていた。
スミスの人見知り度合いは言い表せないほど酷いもので、船長でさえ口出しはしていない。
例を挙げるのならば、
部活の友達とは2年がたった今でも敬語を使い、
同級生も仲良しを覗いては苗字にさん付けをしているのだ。
イグニハイド寮生みたいに人とあまり関わりたくないオーラをまとっているが、
船長が彼の親友の名前を聞いた時は思わず声を出して驚いた。
イデアから陽キャ属性に分類されたカリムが、こんなスミスと本当に親友なのか...と。
スミスが習慣のように卓上の羅針盤を開いた。
SOSのサインである赤いランプが点滅している。
普段は、Aの脳内へと暗号化されたサインが流れるため
周囲にいても誰も気づかないのだが、ウィンターホリデー中は船長は不在。
ということで、可視化させてもらったのだ。
赤く塗られた指針に沿って歩いていけばいいらしいが、部屋を出てすぐに壁に頭をぶつけた。
どうやら、最短距離を指しているようで、壁を壊さず行くのならば遠回りをしなくてはならない。
なんて使い道が悪いのだろうか。
緊急を要することはわかっているのだが、なかなか目的地に着かないため
次第に焦る気持ちが心を支配し始めた。
とりあえず、寮内ではないことを前提として、鏡舎へと向かう。
自分の寮からでれば、羅針盤はくるりと回った。
...違う寮へ行けってことか？
他寮には、普段あまり関わらない生徒が多くいる。
話しかけられると思うと、涙が出そうになった。
しかし、スミスは指針の先を見てすぐに安心した。
なぜなら、指針がスカラビア寮へと繋がる鏡に向かっていたからだ。
スカラビア寮ならば、親友のカリムがいるためそこまで苦にならないだろう。
そこまで気負わずに鏡の中へはいると、カラッと乾いた太陽が照っていた。
ジリー・ロジャー寮とはまた別の気候だったが、スミスはそこまで苦手でもなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 102人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あかまる | 作成日時：2022年5月21日 17時
