蛸と少女 ページ22
海の泡も人も人の放った魔法も泳ぐ魚も
何もかもが止まっている中無邪気に走り回る少女
本当にこの子が時間を止めたって言うのか？
まさか、ありえない。こんな幼い子がまともに魔法を使えるはずもない
穢れを知らないような碧の瞳はきらきらと反射し
長い髪は二つに括られぴょんぴょんと少女の動きに合わせて跳ねている
「まほーを奪っちゃダメだよ？きけんです！」
走るのをやめて頬をぷくっと膨らませ小さな指先でこちらを指してくる
「す、すみません」
大人しく謝ると元気な声が聞こえる
「リリはね！何でもお願いを叶えてあげられるの！皆に頼られてるぅ〜！っの！」
独特な喋り方だな、いや子供なんてこんなものか
「だからおにーちゃんの事、ちゃんといつも通りに戻してあげるけどっその前にお話したいの！」
いーい？と目の前にしゃがみ込んだ少女に戻して貰えるならと合わせて自分も座るとわーいと喜ぶ
「んっとね！リリ嬉しかったの！おねーちゃんはリリの事いっつも知らんぷりしてくるから！」
「そのお姉ちゃん、というのは？」
「Aおねーちゃん！！」
ふむ、ならばこの子は彼女の妹？
いやしかし一個下の妹だと言う話だしこんなに小さくはないだろう
「リリね！いっつも誰かのお願いっ！ていうのをきちんと叶えてきたの、いっつも！！」
「そ、そうですか」
冷たい〜と手足をばたばたさせ騒ぎ出したかと思えば少女が今まで見せたことのない顔を見せる
「おにーちゃんお城の事、勘違いしてるみたいだから、お話に来たんだよ」
「え？」
大きな瞳が目の前で澄んだ碧から黒々とした濁りきった碧へと変わる
常に上がっていた口角はすんっと下げられていて
それだけで恐怖を覚える
「貴方が思っている程、世界は甘く出来てないってこと」
先程までの子供らしい間延びした喋り方でなくはっきりとした、まるで大人を相手にしたかのような感覚
「そうね、ひとついい事を教えてあげる」
目を細め人差し指を口にあてる少女はいつの間にか背丈が変わり大きくなっていて先程までの幼さなど存在していなかった
「あの子が玉座につくことは、絶対に、無い」
「....え？あの子......？」
「じゃーね！おにーちゃん！！」
少女が手を振った瞬間、ぱんと視界が一斉に動き出して
僕は一人膝をついて呆然としていて
もう目の前に少女の姿はなかった
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作者名：あしな | 作成日時：2020年5月5日 15時
