嘘を固めて【ツイステ】 (ページ21)

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蛸の震えページ21

能力を全部奪い取って、一度も説明されたことの無い、存在しているのかも知らなかった彼女のユニーク魔法

発動方法だって分からず、使えるはずも無かったのに何故か発動している

風の吹く音、遠くの海の渦巻き音、魚が泳ぐ度に水をかく音、人々の声、空気が自身にまとわりつくような気持ち悪さ

耳が壊れそう...否、壊れているのかもしれないと思う程大量の音が、声が一斉に聞こえてくる

＿あのインチキタコヤロォが...！俺の魔法を

＿＿この海峡を超えちゃ駄目よ、ほらおチビちゃんこっちへいらっしゃい

＿＿でもねママ、あっちの方何だか黒いんだ

＿＿風が良くない方向だなぁ、変えちまうか？

声が、同時に喋らないでくれ、これ以上何も聞きたくない、聞き取りきれない聞きたくない

頭を両手で抑え勢いよく横に振る

やめて、誰か....ジェイド、フロイド.....助けて....

「ん～、思ってるだけじゃあ聞こえないって事はリリにも分かるよ！！」

でも助けてあげる！と無邪気な声が聞こえたかと思えばパチンという音とともに騒音が一斉に止んだ

「もうお顔あげてもいいよ？」

キーン、と脳に直接届くような声に従って顔をあげれば一人の幼い少女が大きな瞳を近ずけこちらを見つめている

「うわっ、わ」

「きゃははは！！おにーちゃん面白いね！！」

びっくり？と首を傾げる少女の背丈は六歳くらいだろうか

太陽の光をひとつに凝縮したかのように輝くプラチナブロンドの髪に澄みきった海のような瞳

真っ白で綺麗なAラインワンピースに裸足の少女がぺたぺたと駆け回る

「もう普通に聞こえるなら＿＿」

声が脳に響いたと思えば少女がパチンと指を鳴らす

「これでどーぉ？」

どやっと胸をはる少女の声は先程と違いきちんと耳に届くようになっている

「あっ、ありがとう....」

「＿＿どいたましてー！だよ！！」

両手を地面につきはっと思い出して自分の姿を確認すれば本来の蛸の姿だった

しかしいつもと違いどこか黒い

そういえば自分が自分じゃないような感覚が
誰の声も届かない、暗いあの蛸壺に引きこもっていた時のような感じ

ふと辺りを見回し、固まる

「あ！ちょこっとお時間止まっちゃってるのー気にしないでね～リリ、おにーちゃんの事助けたくて止めちゃった！！」

えへへ、と笑う少女

時間の止まったこの世界で二人だけが今を生きているという事実

体が無意識にぶるりと震えた

　

　