Re:#120 ページ7
「予約、してないんですけど……二宮先生のカウンセリングって、今受けられますか？」
病院の受付で聞いた。
震え声になっていないか心配だったけど、受付の人は普通に対応してくれた。
「あぁ、ちょうど今空いていますので問い合わせてみますね。えっと、山崎さんでしたっけ」
「はい、山崎Aです……」
夜の病院はあまり混んでいなかった。
「あ、先生……山崎さんがカウンセリング受けたいって……はい、予約外ですけど……はい、はい、分かりました。
山崎さん、五分ほどお待ちいただいたら大丈夫ですよ」
「分かりました……ありがとうございます……」
途端に、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。
目を開けていても、閉じていても頭に浮かぶのは、
三年前、女の人を突き落とした瞬間を見てしまった私を見つけた二宮先生の顔。
驚いた様子も、焦った様子も無く、
そこにはただ嬉しそうな笑顔があった。
まるでかくれんぼをしていた友達を見つけた、鬼役の子供のような顔。
「山崎さん、どうぞー」
看護師さんに案内されて、私は手汗がジットリと浮かぶのを感じながらいつもの部屋に入った。
「こんばんは、Aちゃん」
「こんばんは……」
いつもと変わらない優しい笑顔で、白衣の二宮先生が私を出迎える。
「どうしたの？ 急に。また何か思い出した？」
戸口のところに立ったまま動かない私を、先生が不思議そうに見る。
「……二宮先生……」
息を吐いた。
それでも、激しく波打つ鼓動は収まらない。
手汗で滑る手を握り締め、ありったけの勇気を振り絞って……その言葉を言った。
「記憶が……戻りました。何もかも、全部」
口元に薄っすらと笑みを浮かべたまま、彼は何も言わずに私の目を見る。
「どうしてですか……？」
自分の声が涙で震えて行くのが分かった。
「信じてたのに」
「……」
「あなたが……私を殺そうとしてた犯人だなんて……」
分からない。
「どうして……？」
スッ……と、彼が私の元に近付いてきた。
体がビクッと反応する。
あぁ、同じだ。
あの時と同じ顔。
あの、怖いほど綺麗な笑顔で私に近付いてきてそれから、
「信じた自分を恨むことだね」
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作者名：琴子
| 作成日時：2017年1月21日 18時
