《完結》BorDer 終焉【ars S.S】 (ページ16)

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Ⅱ ページ16

『マリッジブルー？』
『ん……多分』
『あんなに幸せそうだったのに？』
『うん……。結婚の雑誌とか見たり、ウェディングドレスの画像見てたり楽しかったのにね、最近急に見るのが怖くなっちゃって……』
『相手には言ったの……？』
『うん……あなたと気持ちよく結婚したいから、距離を置かせてくださいって頼んだ。彼、一つも文句を言わずにね、好きな時に帰って来いって』
『出来た彼氏だなぁ』
『ホント……だから申し訳なくて、もう……』

俺の部屋の床にぺたりと座り込んで俯くAの頭を撫でようか迷って、やめた。

『ったく。婚約者放り出して来て、速攻他の男の部屋にしけ込むってさ、お前なんなの？』
『だってー……翔くんしか頼れる人、いないんだもん……』

全くこの、罪深い女の子は。

Aはそのまましばらくの間、俺の家で過ごした。

俺が会社から家に帰ると毎日Aが待っていて……ちょっと勘違いさせられそうになって困った。

ホットケーキを作ってもらったり、一緒に買い物に行ったり、あれこれ騒ぎながら桃の皮を剥いたり。

夢見た毎日がそこにあった。

悶々とする俺の気持ちをよそに、Aは毎日を穏やかに過ごすうちに少しずつ、結婚への希望を思い出して行った。

『私、久しぶりに山に登ろうと思うの』

元旦の、十数日前だったか。
Aが突然言った。

『山？』
『うん。山に登って、朝日を見て、それで決める。
潤の隣に一生いる自信を、朝日にもらってくる』

Aらしい、答えの出し方だと思った。

『幸せ……逃すなよ』

Aは頷いて、俺に感謝を述べた。

その日の夜に家を出たAは、翌朝になっても帰って来なかった。