・ ページ41
「今朝ポストの辺りに置いてあったんです。Aさんへってリボンまで付いてて……」
「ちょ、ちょっと待っ……差出人は？」
「そう言えば書いてなかったですね…？」
「え……差出人の分からない黒百合を手に取ってもうたん！？」
コーヒーを持つ手を空中で止めて思わず尋ねる。Aさんは何かまずかったのかと思案すると眉を下げた。
「えと……花言葉ですか？"呪い"なんて考えすぎだと思うんですけど……」
「花言葉は花言葉なんやけど…そっちじゃない方です」
本当はこんなもの今すぐにでも茎を手折って花弁をちぎって蕊を押し潰してしまいたい。けれど冷静を装って彼女の頬に触れる時のように手を添える。
「アイヌの伝承に意中の相手の傍に黒百合を置いて相手がそれを送り手が分からぬまま手に取ったら恋が叶う、というものがあるんです」
「恋が、叶う……」
心做しか頬を可愛らしく染めてAさんが黒百合を見つめる。その視線にすら嫉妬の念を抱いて花瓶を手元に引き寄せた。器の狭い自分ではその花の向こうに見知らぬ誰かを想像することすら許せないようだ。Aさんは黒百合越しに私を見た。
「それ……結局のところ伝説でしょう？私浮気したりしませんよ」
「でもAさんのことをそういう目で見てる奴がおるってことやろ？」
宝石のような艶を持つ瞳を真っ直ぐに見つめる。今度はしっかりと赤くなったAさんの頬に軽く触れてそのまま後頭部を引き寄せた。
「それすらも許せない……って言ったら笑うやろか」
「えっと……いや、笑いませんよ」
胸に触れたおでこが軽く振動する。「笑っとるやん！」と咎めると彼女は押し込めきれなくなった笑いを喉から漏らした。
いたたまれなくなって彼女を解放すると何とも良い笑顔でこちらを見るAさん。照れ隠しに飲んだコーヒーは適温と言うには少し冷めすぎていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 184人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ベルギーチョコ(プロフ) - 青条さん» レスありがとうございます!!!まさかレスが来るとは思ってなかったのでまだまだ消滅しないで頑張ります…!! (2021年12月24日 10時) (
レス) id: 6938e81241 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - ベルギーチョコさん» ありがとうございます！自己満足で始めたものですが感想貰えるとやはりモチベーションがグッとあがりますね！今後も更新していく予定なのでまだ消滅しないでください〜笑 (2021年12月24日 9時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
ベルギーチョコ(プロフ) - emさん推しには堪らぬ…！こんな素敵な作品を作って下さり本当にありがとうございます(消滅) (2021年12月24日 6時) (レス) @page29 id: a8b18d6813 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 暇人な名無し__低浮上ガチ勢さん» 今の今までコメントに気が付かず……約１ヶ月遅れの返信になってしまいました、すみません！！感想凄く励みになります！このお話"も"って言って貰えてとっても嬉しいです！これからも頑張っていきますので気長に応援してくださると嬉しいです(*^^*) (2021年8月9日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
暇人な名無し__低浮上ガチ勢(プロフ) - ｳﾜｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ七夕のお話めっちゃ好きです...すごい、甘酸っぱい感じで、ほんと、好きです...(語彙力)いや、このお話"も"なんですけどね！？全部のお話がほんとに好きなんです...頑張ってください！応援してます！ (2021年7月8日 15時) (レス) id: d7b6c8461a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：青条 | 作成日時：2020年6月26日 14時
