・ ページ34
わけも分からぬまま器用なエーミールさんにされるがままで、酸欠で意識が霞むと同時にようやくエーミールさんは私を解放した。
「なん、で…………」
「……キスは痛みを緩和するらしいですよ」
「どうですか？効果のほどは」なんて何事もなかったかのように処置を再開する。おかげさまで痛みは軽くなったものの、今度は胸が苦しくてたまらなかった。酸素が戻ってくればくるほど恥ずかしく、しかし虚しくもなる。一度引っ込みかけた涙は結果的に量を増やし視界全体を埋めつくした。
「なっ、何故……！！？もしかして嫌でしたか！？」
しゃくり上げる私をエーミールさんは腕の中に閉じ込めた。「すみません！と、特別手当を用意すればいいですか！？」なんて見当違いも甚だしい言葉を紡ぎながら優しく背中を摩ってくれる。戦闘の最中でも汚れを知らなかった質のいいスーツに涙の染みができてしまった。
「好き、です……ごめんなさい…………」
体が弱ると心も弱るらしい。長いこと閉じ込めていた想いは傷口から血が流れるように自然と流れ出た。言葉は口から出ると思っていたけれど、今回ばかりは心臓から出たらしい。その言葉が占めていた分だけ心臓が縮んで、痛くなった。
「そうですか……Aさん、口を開けてください」
「……はい。…………ん、ふっ……ぁ…」
何も無い殺風景な荒野の中で、エーミールさんは再びキスを迫った。もうこの人が何を考えているのかなんて分からない。口元を拭ったエーミールさんは私の口の端から溢れていたどちらのものともつかない唾液を人差し指で掬うと満足気に微笑んだ。
「貴女、本当に私が痛み止めの為だけにキスしたと思ってるんですか？」
「違うんですか……？」
「ふふ……素直ですねぇ」
エーミールさんは徒に耳にキスを落とすと「これが答えです」とそのまま耳元で囁く。ドキドキとうるさい自分の心音は私を軽々と横抱きにして歩き出したエーミールさんの足音と同じくらいの音量にまでなった。見上げるエーミールさんの顔は上機嫌でそれ以上は何も読み取れないけれど、胸の奥がじんわりと熱を持つ。また一つ、返さなくちゃいけない恩が増えてしまった。「死んでもいいけど、死ねないな」と呟くと「貴女を手放す気なんてサラサラありません」と叱られた。
*
リクエスト
「仕事か何かで窮地に陥ったボディーガード夢主が科emに助けられる話」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 184人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ベルギーチョコ(プロフ) - 青条さん» レスありがとうございます!!!まさかレスが来るとは思ってなかったのでまだまだ消滅しないで頑張ります…!! (2021年12月24日 10時) (
レス) id: 6938e81241 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - ベルギーチョコさん» ありがとうございます！自己満足で始めたものですが感想貰えるとやはりモチベーションがグッとあがりますね！今後も更新していく予定なのでまだ消滅しないでください〜笑 (2021年12月24日 9時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
ベルギーチョコ(プロフ) - emさん推しには堪らぬ…！こんな素敵な作品を作って下さり本当にありがとうございます(消滅) (2021年12月24日 6時) (レス) @page29 id: a8b18d6813 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 暇人な名無し__低浮上ガチ勢さん» 今の今までコメントに気が付かず……約１ヶ月遅れの返信になってしまいました、すみません！！感想凄く励みになります！このお話"も"って言って貰えてとっても嬉しいです！これからも頑張っていきますので気長に応援してくださると嬉しいです(*^^*) (2021年8月9日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
暇人な名無し__低浮上ガチ勢(プロフ) - ｳﾜｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ七夕のお話めっちゃ好きです...すごい、甘酸っぱい感じで、ほんと、好きです...(語彙力)いや、このお話"も"なんですけどね！？全部のお話がほんとに好きなんです...頑張ってください！応援してます！ (2021年7月8日 15時) (レス) id: d7b6c8461a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：青条 | 作成日時：2020年6月26日 14時
