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「何を…してるんですか……！」
昔から、勘はよく当たる方だった。
駆け込んだ部屋には漆黒のシルクハットとマントに身を包んだエーミール警部の姿。その右手には赤ペンが握られていて、彼が案じていた歴史書は彼の手によって無事ではなくなっていた。当の本人は呑気にキャップを閉めて、ゆっくりと立ち上がる。
「警備を放棄してついてきたんですか？悪い人ですね」
「どっちがですか。そんな人だとは思いませんでした」
エーミール警部、もとい怪盗エーミールはこれは怪盗団で用意したレプリカだから問題ないだの、本当の歴史を知らせる必要があるだの、朗々と語った。そしてコホンと、咳払いを一つ。
「まぁバレてしまったものはしょうがないですね」
この緊迫した状況の中で、怪盗は笑みを崩さなかった。追い詰められているはずなのに、笑っている。その姿は異質で恐ろしく、寧ろ自分が弱き者なのでは無いかと錯覚するほどだった。
「Aさん」
こんな下っ端の名前まで覚えていたのか。ああそういえば、そんな所も彼が人気たる所以だった。だからこそ余計に、疑問が尽きない。どうして、彼がこんなことをしたのか。そして、彼は私に何をする気なのか。恐怖で固まった私に、エーミール警部は柔らかく手を差し出した。
「内通者になりませんか？」
真っ直ぐ、今宵の月によく似た瞳が向けられる。その手の上には証拠として回収したこともあるピンバッジが乗せられていた。
「な、なんで……？」
「ははは、勘やね。何となくAさんならなってくれるんやないかと思って」
「断ったら？」
満月のような笑顔だった。神々しさを表面張力いっぱいに乗せたような、それでいて怪しさを纏うような、日常のようで、非日常のような、不思議な魔力を持った笑みだった。上弦の口から、言葉を紡ぐ。
「その時は洗脳ですかね」
「はは……恐ろし…………」
「そんなこと言ってAさん、既に乗り気やろ？」
「な、なんで…………」
「それも、勘です」
本当にこの人には敵わないと思った。彼の言った通り、そんなに嫌じゃない自分が存在している。私は存外、内通者というものを悪く思っていなかった。
「後悔はさせません」
その言葉に後押しされて、ついにピンバッジを手に取る。そのままエーミール警部を確保することもなく部屋を出た私は、その瞬間から内通者だった。
.
今宵も怪盗団が出るらしい。
敬礼の下で薄く笑みを交わした私たちは此度の成功を確信していた。
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ベルギーチョコ(プロフ) - 青条さん» レスありがとうございます!!!まさかレスが来るとは思ってなかったのでまだまだ消滅しないで頑張ります…!! (2021年12月24日 10時) (
レス) id: 6938e81241 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - ベルギーチョコさん» ありがとうございます！自己満足で始めたものですが感想貰えるとやはりモチベーションがグッとあがりますね！今後も更新していく予定なのでまだ消滅しないでください〜笑 (2021年12月24日 9時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
ベルギーチョコ(プロフ) - emさん推しには堪らぬ…！こんな素敵な作品を作って下さり本当にありがとうございます(消滅) (2021年12月24日 6時) (レス) @page29 id: a8b18d6813 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 暇人な名無し__低浮上ガチ勢さん» 今の今までコメントに気が付かず……約１ヶ月遅れの返信になってしまいました、すみません！！感想凄く励みになります！このお話"も"って言って貰えてとっても嬉しいです！これからも頑張っていきますので気長に応援してくださると嬉しいです(*^^*) (2021年8月9日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
暇人な名無し__低浮上ガチ勢(プロフ) - ｳﾜｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ七夕のお話めっちゃ好きです...すごい、甘酸っぱい感じで、ほんと、好きです...(語彙力)いや、このお話"も"なんですけどね！？全部のお話がほんとに好きなんです...頑張ってください！応援してます！ (2021年7月8日 15時) (レス) id: d7b6c8461a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：青条 | 作成日時：2020年6月26日 14時
