七夕 ページ17
昔から今日この日は必ず空を見上げていた。多分それは私だけじゃないし、今日は空を見るという人も多いんじゃないかと思う。だって今日は七夕だ。いくら興味が無くても誰でも知っている、大昔の遠距離恋愛の物語。人の恋愛なんて差程興味もないくせに、七夕と言うだけで空を見る私達の傲慢さよ。健気な彼らに思いを馳せることによって、自分らの願いを叶えて欲しいだなんて、図々しすぎやしないか。まぁ、それは私も例に漏れないのだけど。私も毎年、短冊までは書かずとも輝くリア充の星に恋愛成就を祈り続けている。
今年もまた、空を見上げる。しかし見上げた先は空よりも彩度が落ち、代わりに明度の上がった雲が九割を覆い尽くしていた。これがテレビや舞台のスモークなら、間もなく大々的に今日の主役が出てくるのに。
少しの未練を残しつつ、近所のスーパーに足を運ぶ。きらびやかな店内では異質な笹が私を出迎え、色とりどりの短冊と目が合った。
ここは毎年、大々的に七夕をお祝いしていた。細くて頼りない片手で持てそうな笹なんかじゃなく、重くて大きくしなっているような笹。それは多くの願いを代表して、星に頭を垂れているように見えた。
少し低めの短冊に目をやると、若緑の葉の中に見慣れた亜麻色を見つける。それはよく見なくてもエーミールさんだった。普段目で追ってしまうから、間違えようもない。彼は歪な文字から端正な文字まで、様々な人に綴られた短冊をニコニコと眺めていた。今日はツイてる。そんなことを思いながらエーミールさんの方へ駆け寄った。
「エーミールさんこんばんは」
「うわっ……あ、Aさん。こんばんは」
話しかけられるなんて露ほども思っていなかったのか、エーミールさんは大袈裟に肩を動かし驚いた。それでも直ぐに礼儀正しく挨拶を返してくれる。そんな些細な所に感じられる上品さが好きだった。
「何か願い事書いたんですか？」
「え、いやぁ書いてないですね」
「じゃあ一緒に書きましょ！」
普段は素通りするくせに、ずるい私は少し強引に短冊コーナーへ促す。ここで自然に手でも引ければ良かったんだけど、生憎そこまでの度胸は持ち合わせていなかった。けれど私が机の前に行けばしっかりとついてきてくれる。それがエーミールさんという人だった。子供のために低めに設置されたテーブルで、窮屈そうに身を屈めてペンを走らせる姿は、なんだかとっても愛しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 184人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ベルギーチョコ(プロフ) - 青条さん» レスありがとうございます!!!まさかレスが来るとは思ってなかったのでまだまだ消滅しないで頑張ります…!! (2021年12月24日 10時) (
レス) id: 6938e81241 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - ベルギーチョコさん» ありがとうございます！自己満足で始めたものですが感想貰えるとやはりモチベーションがグッとあがりますね！今後も更新していく予定なのでまだ消滅しないでください〜笑 (2021年12月24日 9時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
ベルギーチョコ(プロフ) - emさん推しには堪らぬ…！こんな素敵な作品を作って下さり本当にありがとうございます(消滅) (2021年12月24日 6時) (レス) @page29 id: a8b18d6813 (このIDを非表示/違反報告)
青条(プロフ) - 暇人な名無し__低浮上ガチ勢さん» 今の今までコメントに気が付かず……約１ヶ月遅れの返信になってしまいました、すみません！！感想凄く励みになります！このお話"も"って言って貰えてとっても嬉しいです！これからも頑張っていきますので気長に応援してくださると嬉しいです(*^^*) (2021年8月9日 21時) (レス) id: 3b14859680 (このIDを非表示/違反報告)
暇人な名無し__低浮上ガチ勢(プロフ) - ｳﾜｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ七夕のお話めっちゃ好きです...すごい、甘酸っぱい感じで、ほんと、好きです...(語彙力)いや、このお話"も"なんですけどね！？全部のお話がほんとに好きなんです...頑張ってください！応援してます！ (2021年7月8日 15時) (レス) id: d7b6c8461a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：青条 | 作成日時：2020年6月26日 14時
