“元”杉沢第三高校一年担任教諭は泰然自若でありたい。（3）【呪術廻戦】

92.火山頭 ページ29

「自ら足手纏いを連れてくるとは、愚かだな」


呪霊が口角を上げ、墨染めの歯を見せる。その言い回しが言葉通りなのが我ながら嘆かわしい所だ。


「ははっ、大丈夫でしょ。だって君──────」

「弱いもん」


“領域展開”を誘発させる為か素でやっているのか、これでもかと言うほどに五条先生は煽りをかける。
　

刹那、呪霊の頭部と結合している火山、そして耳の位置にある栓が吹き飛びマグマが三方向に噴出した。


「舐めるなよ小童がァ！！そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ！！！」


耳をつん裂くような怒声と、肺にまで回ってくる熱気。頭に向かって血ではなく溶岩が上騰しているのか。

呪力の放出と共に湖に漣が立ち、水柱が盛り上がっては大粒の水飛沫を撒き散らして崩れた。


あまりの気迫とその光景に、私と虎杖くんは自分に向けられた訳でも無い言葉を思わず脳内に起こすが、どう考えても納得がいかずただただ驚愕した。


(コイツが……弱い…………！？)


(今までの、どんな化物よりも……、遥かに化物………！！)


その心中を汲み取ったように、五条先生は私達の頭それぞれに軽く両手を置いた。



「大丈夫、僕から離れないでね」


その手から伝わる妙な安心感の所以を、私は嘗て直に目にした事がある。目では追えなかったが。

全てが絶望的だったあの屋上で、紙袋片手に伸脚していた時と似た台詞、同じ顔。

目の前の脅威から逃れる為に真っ先に目指して行き着くべき所は、雪国でも地球の裏側でも無く、この人の後ろであるとすら思い得る程だ。

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